載せてしまおうと思う☆

JUGEMテーマ:小説/詩
 
そこそこ進んだので載せてみようと思う。
いつか終わると思うけど、相当かかりそうなので気長に待ってくれるとうれしいです。
舞台は大阪梅田です。
知ってる人が見たら絶対学校名ばれるけど、気にしない!!


一応、以下設定

主人公

ルノワール・竹田・フランチェスカ
22歳
父親がフランス人で母親が日本人のハーフ
工作員だった両親が4年前仕事中にしくじって家族全員を亡くしてしまう
日本で両親の後を継いで工作員をするのと引き換えにコン専へ行かせてくれるというので
スタートリガー社の情報機密課で工作員として働いている
学校や居候させてもらってるおばちゃんには電話番のアルバイトと言っている
大阪弁とフランス語が話せる。
プリンと紅茶が大好き。
料理やお裁縫も出来ちゃう。

Dante
24歳
天涯孤独の不思議ちゃん
小学生の時にあちこちの国家機関のサーバーをクラックしまくったせいで
政府に消され(死んだことになってる)スタートリガー社でハッカーとして働いている
実はめちゃくちゃ頭が良いけど小学校以降学校へは行っていない
ルービックキューブが得意でいつも害虫のおもちゃで遊んでいる
支部長とは何故か仲が良い
大阪弁と英語がペラペラ(英語は映画で覚えた)
プリンとルノの作る味噌鍋が好き
密室と病院が大っ嫌い
ほっといたらカップラーメンしか食べない

ゆり
22歳
ルノワールの同級生で友達のスケボー少女
なぜか梅田の真ん中を相棒のスケ子で通学している
ちょっとクラッカーだけど実行はあんまりしない
雨の日が大嫌いでプリンラブ
どう見ても目立つし変人だけど、あくまで普通の子

支部長(james)
35歳
スタートリガー社日本支部の支部長。
元凄腕工作員で天涯孤独
五か国語を話せる上、どんな銃火器も使えるが歳だからと支部長になった
上司のくせに優しくおちゃめで世話焼き
甘いものは苦手でdanteに付きまとわれている(と思っている)
元工作員のヴィヴィアンと今もラブラブらしい

ランボルギーニ
スタートリガー社の元支部長つい5年前まで支部長をやっていた
元軍人(どこの国かは不明)で拷問と洗脳の天才
皆に嫌われていた
特にDanteが大嫌いでとにかく気に入らない
今はHeaven's Gate社にいるらしい
| スタートリガー社の工作員達 | 10:27 | comments(0) | trackbacks(0) |

スタートリガー 1

JUGEMテーマ:小説/詩
 俺はぼんやりとホワイトボードを眺めとった。
 その前では宇宙人語にしか聞こえんc++の解説をする先生が、これまた催眠術かと言いたくなる声でダラダラ喋っている。

 そもそも理解不能なとこに、この声やで? そりゃ眠くもなるで。

 クラスは全滅。

 起きてんのは俺と、横で楽しそうに落書きしてる友達のゆりだけ。ゆりにいたっては授業そっちのけやからなぁ。完全に遊んどる。

 俺は重すぎの瞼をこじ開けようと、レッドブルを流し込んであくびを堪えた。

 ふと手元のiPhoneが震える。

 画面にはLineで今日のお仕事終わったら遊びに行こう(^^)とふざけた事を親友で仲間のdanteが送ってきた。

 danteは気楽でええわ。

 そもそもスタートリガー社で一番のクラッカーで基本プログラムを組んでるだけやもん。政府機関にもちょちょいのちょいでクラック出来るし、俺みたいに血を見る仕事やない。(液晶越しには見てるかもしれんけどな)

 羨ましいわ。ホンマに。

 とはいえ、俺もdanteみたいになりたいがためにこの大阪梅田のコンピュータ専門学校に通っとるんやけどな。

 せや、いたって普通を装ってはいるけど、俺は工作員やってる。

 四年前まではフランスで不良少年やっててんけど、スタートリガー社で工作員をしとった両親が死んだんや。詳細は知らんけど、仕事中にミスったって聞いてる。蜂の巣になった死体を見て、俺はめちゃくちゃ好きやったスパイものの海外ドラマを見れんくなったっけ。

 俺は昨日も真っ赤に染まった自分の手をじっと眺めた。

 毎日毎日、学校帰りに会社行っては、変装してコルトを握るんや。ちょっと前までは安全装置の外し方も分からんかったのに、今じゃ分解するのも一瞬やで? 悲しぃなるわ。

 んで、その悲しい気分のまんま会社に戻って返り血を流しにシャワーして、気楽で楽しそうなdanteとちょっと話して帰るんや。そんで家に帰ったら一人で部屋にこもって、なんで俺がこんな思いせなあかんのかって仕事中に死んだおかんとおとんを恨む。こんなんばっかり無限ループしとったら恨まずにおれへんで。

 あと三十分。三十分経ったら仕事や。danteにバックアップを頼んで、またどこぞの会社に潜り込んだり政府の情報を盗んだくそったれを撃ち殺しに行くんや。それが実際に何をしたんかまで俺は教えて貰われへんけど、きっとそいつが殺さなあかん奴やって信じるしかない。

 そう思うと気が重い。

 ゆりや他の友達は皆、俺がスタートリガー社で電話係のバイトしてると思ってる。確かにフランス支部とかの電話はたまに俺が出て翻訳するけど、でもたかだか電話係のバイトやで? 多少嫌な上司がおっても暇で楽で基本楽しい筈やん。あんまり顔に出せば怪しまれるから必死で隠しとる。

 先生が珍しくチャイムが鳴る前に今日はここまでと立ち上がった。先生も早よ帰りたかったんやろ。気持ちは分かる。でも、人を殺さんなあかん仕事してる俺にしてみれば、人間関係なんて羨ましい悩みや。こんなクソみたいな人生送らんでいいんやったら、俺はどんな汚れ仕事でもやるっていうのに。

 クラスのほぼ全員が眠そうにのろのろと立ち上がる。

 俺はうんざりしながら立ち上がり、自分の荷物をまとめてリュックに入れる。

 きっとdanteが準備して待ってるに違いない。アイツ、いっつも遊んでるようにしか見えへんけど、他の社員の倍の仕事してるらしいって聞いた事ある。ゆりにしてもそうやけど、賢かったり仕事の出来る奴って、み〜んな遊んでるようなイメージしかあれへんわ。

 俺はそんな事を考えながらスケ子さんとかいう、相棒とか言うてるスケボーを持って立ち上がるゆりと教室を出た。

「ルノ、今日もバイト? 頑張りやぁ」

 ゆりはそう言って俺の肩を叩いた。

「うん、行ってくるわぁ」

 俺は頷いて、すぐ近所にあるスタートリガー社日本支部のちっこいビルに向かう。

 今日も時間通り頭の上を走っていく環状線を見ながら思う。

 フランスにいた頃が懐かしぃて、寂しぃて、なんや複雑な気分や。

 こんなふうにゴミゴミしてなくて、毎日路地裏で仲のいい友達と悪さして、偽造ID片手にビール飲んだりタバコ吸ったり、毎日めっちゃ楽しかった。こんな鬱陶しい大阪弁も聞こえへんし、女の子は皆かわええし、天国やった。

 皆、俺がこうペラペラ大阪弁やから勘違いするけど、俺はあくまでハーフのフランス人。確かに半分は日本人やけど、俺はおとん似やからどう見たってフランス人や。背も高いし、頭はパツキン、目ぇなんか青いし、日本で道を聞いたらそっぽ向かれるような有様やで。日本人のおかんに似てるとこと言えば白人にしか見えへんのに産毛がめっちゃ薄い事と料理が得意な事だけや。

 しょっちゅうdanteの家でご飯作ってるけど、おかんの味やから、得意料理は味噌汁とか海鮮丼とか、基本和食や。たまにフランス料理作ってくれって言われるけど、俺が作れるフランス料理ってほとんどない。せいぜいそのへんにあるもんで作った適当マリネとかそんなん。だってぶっかけるだけやもん。danteはカタツムリとか食べたいらしいけど、日本じゃ売ってへんし高いし面倒で作った事ない。

 支部は学校のすぐ近所やからすぐ着いた。

 このくそったれなスタートリガー社自体は世界的な結構大きい企業やからそれなりに大きいビルがもっと繁華街の方まで行ったらある。でも俺が働いてるんはあくまで存在しない事になってる情報機密部や。せやからオフィス街の端っこのボロくて小さいビルにある。

 確かに小さいとはいえビル一軒が全部スタートリガー社やから結構広いし、中は最新機器で超がつくほどきれいや。奈良まで帰らなあかん俺やしょっちゅう呼び出されるdanteは、支部の中に別で部屋もあるから帰れんくなった時は泊まれるようになってる。俺としてはあんまり使いとぅないけど、結構な頻度でお世話になってるんは確かや。

 俺はそんな今にも崩れそうなきっちゃないビルの重たいドアを開けて、エレベーターのボタンの前で社員証をかざした。

 これがないと中に入れへんようになってる。初めて来た時はちょっとテンション上がったけど、今となっては普通でしかなくてあんまり気にせずエレベータに乗ると上から三つ目の特殊工作課のボタンを押した。

 俺はiPhoneの電源を切りながら、エレベーターを降りて真っ直ぐ自分の割り当てられた部屋に向かう。

 真っ白でガラス張りのオフィスを通り過ぎ、廊下に出たら突き当りの部屋が俺の部屋。俺は基本、銃を持って乗り込む仕事やから、オフィスもパソコンもあれへんねん。だから来たらまず荷物をここに置きに来る。

 鍵を開けて中に入ると、ぽいっとその辺に鞄を置いて靴箱の上のiPadを覗き込む。俺が会社から仕事の情報伝達用に渡されてるもんや。ホンマは持って帰るもんなんやけど、俺は基本ここにおきっぱにしてる。持って帰るとコン専でゆりにおもちゃにされてばれるかもしれへんからや。それに、ホンマに急用やったら支部長かdanteからメールが来るし。

 iPadを充電器から外して、俺はもこもこの白いスリッパに履き替える。支部ん中、クーラー利きすぎで寒いんやもん。末端冷え症の俺にはつらい。

 そのまま部屋を出て鍵をかけると、俺はそのまま支部長のおる執務室に向かう。

 この支部長、何が凄いって三十五歳で日本支部の支部長やってるって事や。ちょっと前まで俺とおんなじ工作員やったらしいけど、そんなふうにはまるで見えへん。それにしてはちょっとアホっぽいからかもしれへん。ゴキブリのおもちゃとかデスクの上にあるし、工作員の誕生日前になるとクラッカー持ってスタンバってるし。しかもえらいイケメンやし(ちょっと若作りしすぎやけど)、誕生日には必ずしょーもないおもちゃをくれるし(去年はスーパーボールやった)。でも結構、親切で優しい人やからめっちゃ頼りになったりする。

 俺はそんな支部長室のドアを叩いた。

「しぶちょー、ルノで〜す」

 すると何故かdanteがドアを開けてくれた。

「ルノおはよ〜」

 まだ子どもみたいな顔をしたかわいい顔のdanteが笑う。

 毎日支部にこもってるから真っ白けで不健康な顔色しとる。まるで雪男かヴァンパイアって感じ。パソコン用のメガネをかけっぱやから皆に目が悪いと思われてるけど、コイツ何気に俺より目ぇ良いからびっくりやで。しかもゲームばっかりしてるし、女っ気ゼロやし、暇さえあれば俺にドッキリ仕掛けようとするから年上とは思えへん。

 日本人の地毛にしてはちょっと明るめの茶色い髪の毛がさらさら揺れる。

「なにしてんのん?」

 俺はそう尋ねて中に入った。

 danteがニコニコしながらデスクの前の革張りの椅子に腰を下ろして、俺の腕を引っ張った。横に座れと促されて、俺はギシギシうるさい方に座る。

「ジェームズが来るん待ってんねん」

 やけにドヤ顔のdanteにちょっと引きつつ、俺はふーんと返事してiPadを覗き込む。画面には支部長から昨日の報告書はよかったと感想が届いとる。

 情報機密部で支部長の事をジェームズって呼ぶのはdanteだけや。danteは俺より二つ上なだけやけど、中学の時から支部で働いてるらしいから、支部長とは長い付き合いらしい。昔は支部長のバックアップをしてたから結構仲が良い。たまに兄弟みたいに見えたりもする。

 楽しそうに一週間分の仕事を終わらしたから、明日から暇やって語るdanteは幸せそうや。

 仮にも年上で先輩やけど、いつもこんな調子や。なんやかんや言うて、結局コン専の友達よりdanteと遊ぶ事のが多い。言うても二人でゲーセン行ったり、danteの家で闇鍋したり、ロシアンたこ焼きやったりってくらいやけど。

 支部長はすぐに来た。

 ピンク色の花柄マグカップ片手に入ってくると、にこにこしながら俺を見下ろす。

「お、今日は早かったな」

 俺は暇やったからと短く答えてマグカップをガン見する。

「えらいかわいいのん使ってんなぁ、支部長」

「家にこれしかなかったんだ」

 支部長はそう笑って、俺の横を突っ切りデスクまで行って、マグカップをひょいっと下ろすと、静かに座った。

 そんで、吹き出してまうくらい女の子みたいなかわいい悲鳴を上げた。

「キャー!!」

 嬉しそうにdanteがガッツポーズする。

「よっしゃー!」

 支部長はちょっと恥ずかしそうな顔をしながら何かを掴んでdanteに思い切りブン投げた。それは真っ直ぐdanteの頭に直撃して、そのまま床に落ちた。

 足元に転がったそれを確認しようと俯くと、ちょうど俺のナイキのスニーカーの上にミミズが乗っかっとった。それもかなり特大サイズのん。小指くらいの太さがある20センチくらいのミミズやで? 驚かん奴がおったらきっとそいつは人間やない。

 思わず飛び退いてスニーカーからそれを振り払うと、ようやくdanteが屈んでミミズを摘む。

「ちょお待ってぇな、danteそれ触れんの?」

 danteはにっこりと微笑んでそれを揺らした。

「かわいいやろ? ミミズのミミ子さんや」

「いや意味分からんし」

今にも投げそうやったから、俺はそそくさデスクの反対側に回って支部長の後ろに避難する。釣りする時でもあんなん触りとぅないのにホンマdanteなんなん?!

「ルノ、これゴムのおもちゃやで?」

danteはそう笑うと、それをゴキブリの横に丁寧に並べる。

「ジェームズ寂しいやろ? オレのミミ子さん貸したるわぁ」

「いらん。ミミ子さんは持って帰れ」

流石支部長。

めちゃ真顔でdanteにミミズを投げつけ、また言った。

「寂しくないからおもちゃはいらん」

「可哀想にミミ子さん。フラレてもぅて」

ミミズのおもちゃを撫でるdanteを無視して、支部長は俺に書類の入ったファイルをくれる。

「今週中に頼めるか? テストがあるなら別の奴に回すけど」

「大丈夫、やっとく」

俺はそう答えてから椅子のとこに戻って書類を広げる。

悲しい事に、バックアップがdanteになっとる。面倒な気がしてきた。

別にdanteが嫌な訳やないんよ。こんなんやけど、この支部で一番のクラッカーで経験もある。それにdanteと組んだ工作員の死亡率はめちゃくちゃ低い。せやからdanteはいっつも新人と組まされるらしい。あとは危なっかしい奴。俺はきっと危なっかしい方やろな。

キモいおもちゃで遊んでるし、俺より二つ上のくせに料理も出来ひんし、仕事してるとこほとんど見た事ないけど、でも他の誰より頼りになるんは確かや。

たまにヘッドセットから聞こえてくる支部長とか他のクラッカーの悲鳴にとてつもなく不安にさせられるけど。

胸のポケットにミミズを丁寧に直しながら、danteはにっこりと笑った。

「バックアップって誰なん?」

「danteや。頼むで、ちゃんと仕事してやぁ」

俺はため息混じりにそう言うて、ファイルから書類を出してdanteに渡す。

「任してぇや、ルノ」

「おもちゃやのぅて、パソコンの画面ちゃんと見とってや」

「失礼やなぁ、いつもちゃんと見てるで」

不満げなdanteの腕を引っ張って、俺は行くでとdanteを急かした。打ち合わせして明日には終わらす。嫌な仕事やからこそ、俺はこういう仕事をさっさと済ませるんや。

 やらんかったら日本にもフランスにもおられへんねから。
| スタートリガー社の工作員達 | 10:54 | comments(0) | trackbacks(0) |

スタートリガー 2

JUGEMテーマ:小説/詩
 ゆりはいっつもしつこい。
 今日も早よ出勤してちゃっちゃと仕事を終わらしてdanteの家でプリンパーティーするつもりやったのに、たまにはカラオケ行こうと誘われた。俺が歌えるやつは日本のカラオケやとせいぜいフランス国歌と君が代とあと洋楽しかないいうのに、変な子やで。いつもやけど。
今日もスケボー片手に暇やから遊んでくれってしつこかった。しゃーなからバイトに遅刻するって言うて振り切った。
dante以外の日本人の友達はゆりだけやから、ホンマは一緒に遊びに行きたい。でもdanteからさっき準備が出来てるってLINEで来とったし行かんわけにもいかん。
ゆりには今度ゆっくりカラオケに行こうって言っといたけど怒ってるかもしれへん。
支部まで行こうとコン専を走って出たら、正面にゴッツイバイクが止まっとった。
 さらにぎょっとしたんは、そこにもたれて突っ立っとる奴に見覚えがあったからや。
 目ぇも悪くないのに赤いメガネして、片手でiPhoneを触りながらぼうっとしてるアホな顔。黒いパーカーに白っぽいジーパン、バイクに全く似合ってへん襟足長めの小栗ちゃんって感じの頭。しかもただでさえ目立つハーレーみたいなゴツイバイクも赤やで? 黒でも目ぇ引く言うのに、マジで焦ったわ。ぎょっとして目ん玉ひん剥いたで。ホンマに。
 そいつはやたらとふにゃふにゃした笑顔で俺を見て、大袈裟なくらい大きく手を振った。
「ルノルノ! こっちや」
 思わず固まって、無視するべきか真剣に悩んだわ。でもこのコン専周辺に今現在おるルノワールは絶対俺だけやん。誰が見たって分かるやん、俺やて。
 俺がカチンコチンにフリーズしとったら、振り切った筈のゆりが追い付いてきて、俺の肩を叩いた。
「ルノ、知り合いなん?」
 ゆりに言われて、俺はいや知らんとはっきり言い切った。ゆりはかなり疑った顔で俺を見つめてくる。
 いっそこのまま他人のフリしてすり抜けよかと思ってたんやけど、danteがデカい声で叫んだ。
「ちょぉ、無視せんとってぇや」
 しゃーなし、俺はdanteを見る。ついでに心の中でこのKY!!と怒鳴ったったけどな。
 ゆりは不思議そうな顔をしながらdanteをじぃっと眺める。
 danteはにこにこしながら俺とゆりに手を振る。
「バイト先の先輩やねん。俺、遅刻するから行くで、お疲れ!」
 だいぶと無理のある言い訳やった気はするけど、気にせぇへん事にして駆け出した。そのままdanteのとこまで行くと、メットよこせと手ぇ出した。物分りのいいようで悪いdanteは予備の派手な赤いメットを俺に渡すとええのん?と言ってゆりを見る。
 スケ子さん片手に、ゆりはかなり疑った顔をしながらお疲れとは言うてくれた。
 明日、絶対質問攻めにされるで。今から言い訳考えとかんな。
 俺は急いでヘルメットをかぶると、早よ出せとdanteを急かした。俺、バイクには乗らへんから、ヘルメットの留め具をどうやって締めるんか分からんくて嫌になる。急いでんのに、danteは呑気に紐を調節する。早よせぇと急かしたら、danteはにこっと微笑んで了解と笑う。たまにdanteって腹立つわぁ。
多分お兄ちゃん面したいんやろう。一応俺より年上やし、赤ん坊の頃から天涯孤独って噂やし、しゃーない。
 danteは優しく笑ってゆりに手ぇ振ると、バイクに跨って俺に言う。
「ちゃんと掴まっとってや。飛ばすで」
「分かっとるって、早よぅしてぇや」
 やっとエンジンが掛かって、バイクは走り出した。
 やたらと安全運転でイラッとしたけど、多分コン専生が多くて飛ばされへんかったんやと思う。この辺は道が狭いのにコン専生がよぅけ歩いとるからバイクでも車でもちんたら歩きと大して変わらん速度やし。
 後ろから走ってきたスケボーのゆりのが早くて、俺はため息をついた。
「ルノ、また明日なぁ」
「お疲れ〜」
 俺はちょっと遠回りしてくれとdanteに囁いて、ゆりに手を振った。
 danteはわざわざ御堂筋を突っ切って、結構な距離を遠回りしてくれる。
 ゆりはスケボーやし、ここまで速くはないと思うんやけど何しでかすか分かったもんやない。車の後ろにくっついてバックトゥザフューチャーかと言いたくなるような事する子や。前にもdanteの家からチャリでコン専まで行ったら、スケボー引っ張ってとか言うて後ろにくっついてきたからなぁ。
 たっぷり時間を掛けて支部につくと、danteは俺に言った。
「ごめんな、もっと目立たんとこにおったらよかったよなぁ」
「別にええよ。迎えに来てくれて助かったし」
 ヘルメットが脱げへんからもがいてると、danteが金具を外してくれた。メットから解放されてほっとする。
「ありがとう、dante」
 danteはいつもと同じ、優しい笑顔でええよええよと笑ってバイクから鍵を抜いた。
「でもなんで迎えに来たん?」
「暇やってん。久々にバイクにも乗りたかったしな」
danteと並んでボロい支部のドアを押したら、ちょうど書類を抱えた支部長がおった。どっか行くらしい。黒い鞄を持っとった。
「どこ行くん?」
「表に呼び出しだ、仕事しろよdante」
「了解でありまーす」
ふざけたdanteにちょっといやそうな顔しながら、支部長は出て行った。上司の割にはそうやって冗談も通じるところがやっぱり若いと思う。
ちなみに、表っていうんはちゃんと存在する部門の事で、存在しない事になってる情報機密部を裏って呼ぶんよ。表は基本的には梅田のど真ん中にある存在する支部の建物をいう事が多いんやけどね。
danteはエレベーターのドアを押さえて早よ乗りって呼んでくれる。お兄ちゃん面してるつもりやろけど、かなりマヌケに見えるわ。
俺は一応ありがとうと伝えて乗り込むと、重い鞄を背負い直した。今日は辞書みたいなjavaの教科書があるから、まるで機関銃担いでる気分になるわ。まあ、機関銃はもっと重いけど。
「すぐ行けるん?」
 俺はdanteに尋ねて、荷物を一旦床に下ろす。こんなんかつぎっぱやったら肩外れてまうわ。
「もちろんやで、朝から準備したんやからな」
 danteはそう答えてまたエレベーターのドアを押さえて俺が降りるんを待つ。
 ありがたく降りて歩き出したら、danteは黙って俺についてきた。
「いつも通り、単独やけど大丈夫?」
「この俺に出来ん訳ないやろ? 任しとけって」
 俺は出来るだけ明るくそう答えると、後ろで心配そうな顔をするdanteに笑って見せた。俺がちょっと怪我するたんびに泣きそうな顔をして医務室についてくるような奴やもん。肩を銃弾がかすっただけで、パニクって泣き出した事もある。せやから、実際無理でも俺は出来るてはっきり言うようにしてる。
「オレはオフィスでパソコン越しにバックアップするから、落ち着いてゆっくりやってな」
 danteはちょっと寂しそうにそう言うと、俺の部屋のドアをまた開けてくれた。このクソ重い鞄のおかげで両手が塞がってたからめちゃ助かった。
「武器庫で待ってるで、早よ来てや!」
 俺は分かったと返事して、さっさとクローゼットを開けた。
 仕事用のシャツとストレッチパンツを引きずり出して、それを着る。今日はちょっと寒いから、上にフリースの上着も着とく。全部黒なんは、返り血が目立たんようにや。正直ダサい。でも流石にGパンで仕事するのもつらいししゃーない。
 服がこんなんやとちょっと目立つから、アクセサリーは必需品。今日はドンキホーテで発見したちょっとゴツイ十字架のペンダントを選ぶ。あと武器開発課のおばちゃんがくれた発信機付きの腕時計。おしゃれで気に入ってんねん。
 鏡の前で黒のウィッグをかぶったら、もう誰も俺やて気づかんやろ。
 最後に黒のショートブーツを履いた。履きなれてるわけやないけど、どうせすぐ血でベトベトになって捨てるんやし気にせぇへん。履きなれる前にどうせゴミ箱行きやもん。
 ゆっくりと部屋を出てエレベーターに乗ると、武器庫のある地下のボタンを押す。
 行きたくないから、足が物凄く重く感じる。行きたくないから、エレベーターが物凄く遅く感じる。
 それでも黙って立ってるんはきっと、自分の居場所がほしいからなんやと思う。
 真面目に仕事をしてる限り、日本にはおれるから。日本におったら、少なくともdanteとゆりがいてるから。
 亀よりちんたら降りとるようにも感じたけど、やっとエレベーターのドアが開いた。
 武器開発課のおばちゃんや俺に自転車を作ってくれたおっちゃんらが、今日も忙しそうに武器を作ってる。小さいカメラとかペン型の盗聴器。武器を隠せるビジネスバッグとかそんなん。俺の自転車もなんやいっぱい装備がついてるらしいけど、使うた事ないからよう知らん。ちょっと重いだけの自転車でしかない。
 廊下を突っ切って一番奥の武器庫まで行くと、おばちゃんらが手を振る。
「お疲れ、おばちゃん」
 俺はそう手を振り返す。
「仕事か?気ぃつけてなぁ」
 親切なその声にありがとうと返して、武器庫の重いドアを押した。
 danteは武器を確認してた。
 俺と違って簡単な射撃訓練しか受けた事がないらしいけど、ゲームに出てくる銃に関してはよぅ知ってる。名前でどの銃かぐらいは分かるらしくて、昨日俺がリストアップした武器と銃弾は準備済みやった。
 俺は軽そうなのを選んで、一番近くにあったバッグパックに詰めていく。danteが出しといてくれてるコルトとその弾。そんなに大量にいらんのは分かってるから出してくれてるのを半分だけ詰める。
「そんなけで足りるん?」
 そう言うdanteに笑って大丈夫やから任しとけと返せば、了解て嬉しそうに笑ってくれる。俺はそれに少し癒された。毎回そうやけど、danteが笑ってると癒されるんよ。たまに腹立つけど、それが良いんやろなと思ってる。
 最後にリバーシブルのパーカーを一枚持ったら完璧。
 工作員のRenoirの完成や。
「帰ったらプリン食べようや」
 俺はdanteにそう言って笑いかけるとバッグパックを担ぐ。ちょっと重いけど、コン専の鞄に比べたらどうって事あれへん。あれは正直酸素ボンベ持ってるんと大して変わらんもん。筋トレでもあんなん背負わへんで。
「待ってるで、ヘッドセットつけていく?」
「つけてく」
 俺はdanteが出してきた小さ目のBluetoothヘッドセットを耳につけて、電源を入れる。iPadのSkypeをdanteに掛けて接続をチェックしてると、スマフォを耳に当てたdanteが言った。
「もしも〜し、聞ことる?」
「近距離過ぎて分からんし。離れてぇや」
「じゃあ、先オフィス戻るで」
 俺ははいはいと返して、辺りをもう一度確認してからiPadをバッグパックになおしとく。
「聞こえるぅ?」
 アホな声が聞こえて、俺は大丈夫と返事する。そのまま俺は話ながら武器庫を出て、真っ直ぐオフィスに向かう。ちょっと先を歩くdanteの背中が見えるけど、あえて何も言わず、俺はそのまま普通に話し続ける。
「今日の予定は?」
「最近多いんやけど、Heaven'sGate社の工作員がうちの機密情報を盗んだらしいんよ。どこからどうやってなんかは分かってないんやけど、とにかくその機密情報を海外に持ち出される前に破棄してほしいんやって」
 俺はふーんと返事して、靴ひもをもう一度結びなおしておく。いちいち解けやがってと若干イラッとするけど気にせんようにしておく。
「了解、ほな出発するわ」
俺はdanteにそう言うと、ぼうっとしてた仲間のおっちゃんに送ってと声をかけた。いつもは支部長が仕事を抜け出す口実に送ってくれたりするんやけど、今日はいてへんからしゃーない。バックアップがdanteやなかったら頼むんやけどなぁ。
danteが楽しそうに気をつけてなぁと繰り返し、デスクに座る音がした。俺は頼むでともっかい言うてから、おっちゃんと外に出た。
おっちゃんは外に停まってた普通のミニバンのドアを開けてちゃっちゃと乗り込む。俺は後ろを追いかけて中に滑り込み、バッグパックを下ろした。重たくて背負ってるのは辛い。
「ルノも大変やなぁ」
おっちゃんは優しくそう話しかけてくれた。俺は憂鬱な気分をごまかすようににっこりと笑って見せると、おっちゃんこそ今日は元気ないやんと返した。
たまに一緒の仕事もするけど、強くて頼りになる優しいおっちゃんや。俺はこの人めっちゃ好き。二回くらいしか見たことないんやけど、エライ冷たい目で睨んでくる変なジジイがおったっけ? あんな変なんとは大違いやで。
車は相変わらず人の多い梅田を抜けて、あんまり行かへん難波の方に向かう。自分がどこらへんに居てるんか、俺には全然分からんけどバックアップのdanteが案内してくれるから(多分)大丈夫。
俺は安心して外を眺める。
ぱっぱか抜けてく人混みの雑踏を見てるとなんか馬鹿馬鹿しぃなってくる。
だってそうやろ?
俺みたいに政府の機密情報のためやったら人を殺してもええて言われとる工作員が、普段はこんな中に混じってんねんで? 俺はやりたくもないこんな血みどろの腐った仕事を、映画やドラマはカッコよぉ映してちっちゃい子の夢になったりする。
昔は俺もそんな一人やった。
家族が蜂の巣になってんのん見てもて、他の誰かの家族におんなじ事させられるまでカッコええと思ってた。
そこまでして守った情報に、一体どんな価値ある言うん?
俺には分かれへんけど、どうせ大したもんちゃうんやろ。それが向こうに渡れば戦争になるかもしれんだけ。なるかどうか、誰にも分からんのに。
俺はゆりみたいに学校行ってるけど、やっぱりちゃうんよ。
ゆりみたいに普通の人生を送りたいけど、死ぬまで背中に気をつけやんなあかん。せっかく普通になれても、いつ俺が知ってしまった情報をネタに脅されるか分かったもんやない。
そんなん考えてたらやってられへんけど、でも俺はそう思う。
元々頭の悪い俺がちょっと勉強しただけでdanteみたいになれるとは思ってへんよ。
だってアイツ、根本的にちゃうもん。ちょちょっと映画見て英語ペラペラとか、中学もマトモに行ってへんのに俺の宿題いっつも手伝ってくれるとか。そもそもクラッキングを小学校の時に図書館の本だけで勉強したとか、凡人の俺には理解不能。
それでもや。せめて普通のプログラマになれたら、人を殺さんでええ仕事に就けたらて、そう思わずにはおれんのや。
早速カツラからこぼれてきた自分の長い金髪をネットに押し込み鏡を見てからため息をついた。
「おっちゃんは仕事嫌になったらどうするん?」
俺はおっちゃんに尋ねた。
「家に帰って嫁さんに癒してもらう」
おっちゃんはにっこりして言った。
「そんでな、この人のために手を汚そうて自分に言うんや。この人のために人を殺すんやって」
俺には全然分からんけど、おっちゃんはホンマに穏やかな顔しとった。俺がそんなふうに笑える日が来るか、微妙なとこやけど。
| スタートリガー社の工作員達 | 11:04 | comments(0) | trackbacks(0) |

スタートリガー3

JUGEMJUGEMテーマ:小説/詩

「で、隠そうとしたって訳か?」


支部長は俺とdanteにそう言った。

暖房が効いてる喫茶店の隅っこで、支部長は苦そうなブラックコーヒーをひたすらすする。いつもと同じ優しい顔やけど、多分怒ってるんやと思う。今日はいつもより静かやし、黙ってる。不機嫌らしいのは分かる。

danteがもう温ぅなったプリンをつつきながら頷く。

前世はきっとおじゃる丸のdanteがなかなかプリンを食べへんからには、ホンマに支部長は怒ってるんやろ。じゃなかったら一日に四回もプリン休憩しよるdanteがプリンを目の前に食べへんなんてあり得へんもん。きっと支部長と付き合いが長いdanteには分かるんやと思う。

俺は紅茶をすすって、俯いたまま黙っとった。

元を辿れば俺が悪いんやけど、こういう時はdanteに任せるのが一番やから。

支部長のお気に入りやし、支部長もdanteの説明はきっと黙って聞く筈やもん。

ゆりは紅茶をすすりながら、どうしたもんかと困り顔や。

当然やけど、ゆりは初対面の支部長をまたスケ子さんでぶん殴ろうとしたぐらいやから、信用はしてへんねやろ。全くと言ってええくらい口も開かず黙ってる。まあ、追手にも見えたししゃーないよな。

「ルノはともかく、danteは私がそんなに信用出来ないのか?」

支部長はそう言って、danteを見つめた。

優しい口調やけど、これはもうどう考えても支部長怒ってるわ。

それも何故か俺らやなくて、何故か一番悪くないdanteを集中的に。

でも今俺が口を挟んだら、今度こそ鼻の骨がバキバキになるで。

「そんな事あれへんけど、でも」

「でもじゃない。お前はアホか?」

支部長はdanteにそう言って、またコーヒーをすすった。

「心配しなくても、事情さえ分かればどうにかしてやるに決まってるだろ?」

そして俺とゆりを見ると、優しく言った。

「極秘にはなるから、誓約書は書いてもらうがルノを転校させたりしない。安心してくれ」

相変わらずプリンをつついてたdanteを見下ろして、早く食べろと囁いた。

「なあ支部長。danteは悪ぅないから怒らんとってぇや」

「誰も悪くないのは分かってる。ただ、danteが相変わらず信用してくれてないのに腹が立っただけだよ」

「それ怒ってるやん」

やっとプリンを食べだしたdanteを見下ろして、支部長は呟いた。

「そうかもしれないな」

ゆりがちょっと羨ましそうにプリンを見るから、頼んだらと俺は囁いた。

ゆりはいらんよと答えて静かに支部長を見た。

「うちはどうしたらええん?」

「そうだな、とりあえず支部で簡単な誓約書を書いてもらえたらそれでいいよ。迷惑をかけたね」

やっぱり優しい支部長はそう笑ってみせると、俺を見た。

「とにかく無事で何よりだ。ところで帰りはどうする?」

「帰り?」

「danteはバイクで出て来ただろ? ルノとゆりちゃんは私の車に乗ってくか?」

そこで何故かdanteが立ち上がる。

おかげでプリンが大きく揺れて、カラメルが垂れた。

「オレ、一人で帰んの?」

「仕方がないだろ? お前の運転荒いから、私の車は運転させたくない」

支部長はいたって真面目にこう答えた。

流石に俺は支部長に同意。運転はともかく、あんな真っ赤なバイクにスーツで乗るのは嫌やで。どんな格好してても、あれは流石に恥ずかしいで。ゴツイし赤やし、めっちゃ目立つもん。

「酷いってジェームズ! オレそんなに信用出来ひんの?」

「それは私のセリフだろ? 一人で帰れ」

支部長はきっぱり言い切ると、俺を見た。

「なんならルノかゆりちゃんを後ろに乗せるか? どっちにしたって一緒だろ?」

そしたら嬉しそうな顔をしてゆりが手を挙げた。

「あ、うちdanteの後ろが良い!」

「はあ?」

支部長が真顔でゆりを見つめた。

きっとゆりはdanteのバイク見てへんからやで。あれ見たら乗る気ぃせんで。あれは悪趣味の域やもん。正直、あれはオーランド・ブルームとかが乗らん限り、誰もカッコええと思わへんで。

「うちバイク乗った事あれへんねん! 乗してぇや」

「ゆり、赤やでやめときぃや。恥ずかしいで」

俺はゆりにそう忠告して、支部長を見た。

支部長も唖然とした顔をして、俺を見ていた。多分俺と同じようにdanteのバイクが悪趣味やと思ってるに違いないわ。

「ええやん。ルノ、うちのスケ子さん頼むで。dante、乗せてくれるやろ?」

「もちろん。でもええの?」

「もちやで!」

元気良く笑ったゆりを見て、支部長は立ち上がった。

俺は急いで支部長を追いかけた。

「支部長、俺が出すよ」

「何言ってるんだ? まだ学生だろ? 大人しく奢ってもらっとけ」

支部長はそう言って、カッコよくクレジットカードを店員に渡して外に居ろと笑った。

やっぱりこの人、頼りになるなって心から思った。
 
| スタートリガー社の工作員達 | 20:06 | comments(0) | trackbacks(0) |

スタートリガー4

JUGEMテーマ:小説/詩

随分嬉しそうにバイクを降りてきたゆりは、騒ぎ疲れたんかちょっと眠そうやった。
danteも珍しくバイクを褒められたんが嬉しかったみたいで、ゆりの横をひょこひょこ歩きながら笑ってた。仲良くなってくれたみたいで俺もホッとしたわ。これでケンカでもされたら大惨事やで。きっと俺、泣いてたわ。
俺はゆりのスケ子さんを抱えて二人に尋ねた。
「どうやった?」
 二人は仲良く声を揃えて答えた。
「めっちゃおもろかったー!」
 俺はそれを聞いてますます嬉しくなった。
 隠し事せんでええのが一番嬉しいんやけど、それよりも大事な親友のゆりとdanteが仲良ぅしてくれる事やと思う。
 結局、俺は一人ぼっちやって心のどっかで思っとったんやろな。
 支部長は俺とdanteを見て言った。
「兄弟みたいだな」
「俺、こんな手のかかる兄貴いらんわ」
「ルノ酷いやん! オレのダウン返せ」
「嫌やし、寒いやん」
騒いでると、確かに思った。ホンマに兄弟みたいやって。
ゆりは正直、ホンマにここが支部かって疑っとったけど中に入ったら納得したみたいやった。
確かにこのボロさから言うて、普通は疑うよな。俺かて初めは疑ったもん。ってか、疑わん奴おるか? 中だけは異世界レベルできれいから、これを見るまで誰も納得せんもん。
俺らは真っ直ぐ支部長室に向かった
きょろきょろするもんやからちんたら歩くゆりの後ろを、俺はゆっくりと一緒に歩いた。
「後でdanteのオフィス見てもいい?」
俺にそう言うてくるゆりに、支部長が静かに答えた。
「danteのオフィスは重要書類しかないから却下。ルノの部屋で遊ぶといい」
「そうなん?」
「danteはこんなんだけど、スタートリガー社でもトップクラスのハッカーだからな」
支部長はそう言って、俺らのさらに後ろを歩いてたdanteを見た。
「なんか言うた?」
「danteは仕事しろ」
「もう終わらしたってば」
退屈そうに答えたdanteは、俺を見てにっこりと笑って見せる。
ホンマにコイツ、俺より二つも年上なんやろか?
ゆりはにこにこしながらdanteを見る。
「凄いやん! うちもそう言われてみたいわぁ」
何故か嬉しくなさそうなdanteはそうやろかと呟いて、寂しそうな顔をした。
俺にも理由は分からんかったけど、支部長がちょっとだけ悲しそうな顔をして、ドアを開ける。支部長しかdanteの考えてる事は分からんねやろなぁ。俺にも全然検討がつかんかったくらいやから。
支部長はゆりをぎしぎし言わん方の椅子に座らせると、danteに書類を探して来いと言った。ついでに自分はデスクのごっつい椅子に腰を下ろす。俺は手持無沙汰でゆりの横に座るしかなかった。
「これでええのん?」
danteはファイルから紙切れを一枚出してきて、支部長の前に置いた。
支部長はそれそれと笑って、近くにあったペンを掴んで、ひょいっとゆりの前に置いた。
「迷惑をかけたね」
「そんなんどうって事あれへんよ」
ゆりはそう答えると、ペンを持って書類の文字を確認する。こういうとこ、ちゃんとしてるよな。ゆりの事やから確認せぇへんのとちゃうかと思ったもん。
danteが暇そうに支部長の横に突っ立って、デスクのゴキブリを抓む。なんかしでかすんちゃうやろかと見とったら、支部長が黙って、それを取り上げた。不満そうやったけど、支部長に睨まれてすぐに手を引っ込める。
ゆりはしっかり確認してからサインして、念のためなと写メまで撮った。
「で、danteは何してんの?」
ゆりはそう言って、退屈そうなdanteに声をかけた。
danteは嬉しそうに微笑んで、デスクのゴキブリを拾い上げる。ついでにパソコンの上にそれを丁寧に置いた。
やっぱり、コイツはアホやで。うん。
「頼むから、ゴキブリは持って帰れ」
「嫌や」
ゆりはそんなやり取りを見て笑うと、仲ええなぁと呟いた。
「ルノ、部屋でプリンでも食べてこい。それからゆりちゃんを送るんだ」
「了解」
俺は短くそう答えると、ゆりの手を引っ張って立たせた。
「danteも来るやろ?」
俺が声を掛けたら、danteは満面の笑みでついてきた。
「プリンパーティーや!」
「じゃあプリン貰ってきてぇや。先、部屋行ってんで」
「分かった〜」
ホンマに嬉しそうに笑ったdanteは支部長にまた後でと手を振って、それから食堂の方に走って行った。
俺はゆりにこっちやって言うて、真っ直ぐ自分の部屋に案内する。
ホンマはこたつのあるdanteの部屋がいいんやけど、しゃーない。danteは食堂行ったし。
大体、danteの部屋は居心地が良すぎんねん。こたつもあるし、ゲーム機も山ほどある。しかも俺の部屋と違ってシャワー室とトイレまであるんや。待遇が違いすぎるって。danteがそこのトイレを使ってるとこ、見た事はないけど。
「ルノの部屋って、何?」
「仕事が夜やったら帰れへんから割り当てられてる部屋。俺、デスクもないから」
そう言うて、俺は鍵を開けてゆりを先に通す。
「どうぞ」
ちょっと嬉しそうに中に入ったゆりに、スケボーはこっちと玄関の壁に立てかけてもらう。そのまま、床に鞄を下ろすと、俺はdanteのダウンジャケットを脱ぐ。一番近くにあったセーターを羽織って暖房を入れる。
ゆりは不思議そうな顔をしながら俺のジャケットを脱いでこっちに渡す。
俺はそれをハンガーに掛けてから床に座った。フローリングは冷たいわ。
「意外と狭いんやね」
「danteの部屋は広いしこたつあんで」
「何それ、絶対ルノが寄生するやん」
「なんで分かんねん」
「まあ、ルノとは四年も友達やってるもんでねぇ」
ゆりはいつも通り笑うと、お気に入りのもふもふ座布団をこっちに投げる。流石、ゆり。分かってるぅ。
「ルノもこたつ置いたら?」
「今はdanteの部屋にパラサイトするからいらんかなぁ。泊まる時も、結局danteの部屋でたこ焼きパーティーやったりするし、ここはほとんど使ってへんもん」
ふーっと息を吐き出すと、danteが開けてとドアの向こうで叫ぶ。
一体何個のプリンをもらってきたんやろ。
俺はよこらしょと立ち上がり、ドアを開けた。
「ルノルノ、持って」
danteはそう言ってお盆を俺に押し付ける。
「danteの部屋行こうや、ここ寒い」
「ルノが帰らんくなるから嫌やし」
danteは冷たくそう言うと、スニーカーを脱いでゆりの横に座る。
こうなるとしゃーないよな。
俺は黙ってお盆を一人用のテーブルにのせる。
danteはポットとカップを三つにプリン十個も持って来とった。一人三つの計算でもおかしいやろ。そもそも、俺はこんなにいらんし。
「多くない?」
「オレ、四つ食べるから」
嬉しそうなdanteを見ながら、ゆりは笑った。
 アルコール抜きの宴会にしてはなかなか楽しかったで。だってゆりはプリン食べながら変な顔するし、danteはそれ見て紅茶吹きそうになっとるし。結局プリンを追加して、俺も三つ食ったし、danteは六つも食いよった。美味しいと嬉しそうな顔をしたゆりを見て、やけにホッとした。
晩御飯、もういらんなぁとぼんやり考え事をしとったら、突然警報が鳴った。
こんなん初めてで、俺は立ち上がってドアを開ける。
ゆりがdanteの横で不安そうな顔をした。
「どないしたん?」
俺はわからんと短く答えて、廊下を走っとった支部長を捕まえる。
「支部長、これ何?」
「多分、不審者だ。部屋にいて大人しくしてろ」
支部長はそう叫びながら走り去って、俺は首をかしげるしかなかった。
大人しくドアを閉めてなんやろなぁと言いつつ、俺が自分の座っとったもふもふ座布団の上に戻るとdanteが言った。
「あれ、ヤバいやつちゃう」
「なんで?」
「ヤバくなかったら使えへん警備員を呼ぶより、支部にいてる工作員のルノを駆り出すに決まってるやん」
マトモな意見を言ったdanteが続けた。
「なんか真面目にヤバいやつなんか、狙いがルノかゆりなんちゃうん?」
俺は隣りで少し不安そうな顔をするゆりの肩をそっと撫でた。
「大丈夫やで、俺、空手黒帯やから」
「でもうち、ルノが戦ってるとこ、見た事ないんやけど」
「そこは安心ですって言うてくれる?」
danteは笑いながら、俺のiPadを覗き込む。
ほとんど使ってないおかげで最近、完全にdanteの物になってる。学校にも持ってかへんし、そもそも仕事中も重なるとiPhoneがあるし置いて行くからや。たまに遊びに来たdanteのおもちゃにされてる。使ってないからええんやけど。
ゆりが俺に尋ねる。
「danteは何してんの? ホンマにハッカー?」
俺は頷いてdanteに尋ねる。
「なんか分かった?」
danteが顔も上げずに深刻な声で答えた。
「MirandaがJamesと撃ち合ってる」
不安そうに呟く。
「まさか、Mirandaが裏切ったん……」
danteがこんなに心配そうな顔をするんは、俺が前に弾かすったせいで怪我して戻った時くらいや。まだ若いとは思うけど、支部長もええ年やししんどいのは確かやもんな。昔は相当強かったって聞いてるけど、それでも心配なんやろうな。今にも部屋を飛び出しそうな勢いや。
俺は言うた。
「俺が行くから、danteはここにおって」
俺やったら、互角とまではいかんけど、十分支部長の援護は出来る。
銃の使い方とか、ピッキングの仕方とか、何かヤバい事があった時の対処法とかを教えてくれた人やし、強いのは確かや。大丈夫。
俺は変な自信を持って、部屋を出た。
ドアを閉める前にdanteに向かって言うた。
「鍵かけるんやで、ええな?」
そしてドアを閉めると、銃声のする方に向かって走った。
多分、あの音は支部長室の方からの筈や。
ゆりの事ですっかり忘れとったけど、Danteはあの件支部長に報告したんやろか? それどころやなかったから、まだちゃうやろか。
廊下はごった返しとった。
工作員は支部長室の前に固まって、銃を持ってるけど見とるだけ。使えん奴らやで、ホンマ。助けに乗り込めや。
俺は支部長室の前まで行って、数人の工作員から銃をひったくって中に乗り込んだ。
「支部長! 大丈夫か?!」
支部長は割れた窓ガラスを踏みながらこっちを見た。
見たことない支部長やった。手にはやたらとでっかい銃を持ってて、冷たく鋭い人殺しの目でこっち見んねん。danteと遊んでる時とは別人。
その支部長が、いつもとおんなじ優しい声で俺に言うた。
「ルノ、怪我はないか?」
「いやそれ俺のセリフや」
支部長は銃をデスクに置いてため息をついた。
「danteは大丈夫か?」
「部屋におるように言うたで」
「そうか、よかった」
そこでようやく支部長はいつもの支部長の顔に戻った。
「なんやったん? 大丈夫?」
支部長は俺の肩を叩くと歩き出した。
「裏切りだよ、よくある」
そして悲しそうに俺を見る。
「今日はゆりちゃんだっけ? あの子とdanteを見ててくれないか?」
「ええけど、なんやったん? 教えてぇや」
俺はそう支部長にいいながら、足早に部屋を出るその後ろを追いかけた。
「ミトニックとMirandaが裏切った」
「それってクラッカーの? danteの友達ちゃうん?」
「そうだ」
俺はあんまりよぅ知らんけど、danteから聞いたことある。
28歳くらいのdanteの次くらいに腕のいいクラッカーや。俺が支部で働く前にdanteが仲良かったって言うてたけど、年離れとったからあんまりやったらしい。
danteがなんや言うとったっけ? ケヴィン・ミトニックってアメリカのクラッカーの名前からつけたらしい。danteはコンドルって呼んどった。なんでか知らんけど。
「あいつが?」
支部長はうなづいた。
「だから見張っててほしい。danteは発信器嫌がるんだ」
「なにそれ?」
「とにかく頼む。私は事後処理があるから」
「よぅ分からんけど了解」
俺はそう返事して、突っ立ったままこっちを見てた工作員に持っとった銃を押し付けた。
「あ、ルノ」
めんどくさくて態度悪なるわ、ホンマ。
「なにぃや?」
danteよりちょい年上くらいの工作員が俺の肩を叩く。誰やっけ、こいつ。あんまり組まへんから分からんわ。
「勇気あるよな、あんなとこ入ってくとか」
「はあ? 仲間がヤバイのにそんな事言うてられへんやん」
「いやいや凄いって。ターミネーターやったらほっといても死なんやん。それに流れ弾食らいそうやったし」
俺は思わず聞き返した。
「ターミネーター?」
「あれ、ルノ知らんの? 支部長やん。昔からJamesやなくてターミネーターって影で呼ばれてんねんで」
「俺、支部長がホンマにそんな強かったと思えへんねんけど」
だって、あのゴキブリdanteの話なんか信用ならんやん。
大体danteはいっつも話が五倍くらい大袈裟やもん。この前、部屋に出た小指の爪くらいのクモを、支部長にはタランチュラや言うてたもん。流石に鉛玉食らって立ち上がるようなロボットとはちゃうやろ。
「マジやから!!」
その場に追った全員が口をそろえて言い出した。
「フライパンで戦車乗っ取ったんやろ?」
「それ、Vivianちゃうん?」
「じゃあ、鉄パイプ一本でHeaven'sGate社の工作員二十人を一瞬で叩きのめしたやつや」
支部長でも誰でもええけど、エライ大袈裟やなぁ。酷すぎひん?いくらなんでも、この世にフライパンで戦車乗っ取る奴はおらんと思うで。やろうとも思わんわ。
「それそれ。でも実際、danteとVivianしか見てへんかったんやろ?」
「danteはまだしも、Vivianは嘘つかへんで」
支部長って、ホンマ昔は何しとったんやろ?
俺は盛り上がってる輪からこっそり抜け出して、ゆっくり歩いてdanteの部屋に戻った。
「dante! 開けてぇや」
ドアを三回叩いて俺は言うた。
悪知恵だけはよぅ働くゆりと一緒に、なんやいらん事企んでんねやろなぁ。全然ドアが開かへん。物音一つせぇへんで。ドアの向こうで必死になって笑いを堪える二人のアホ面が目に浮かぶわ。
でもそんな事に引っかかったる程、このルノ様は優しぃないで。あの二人の度胆を抜くような事、しでかしたんねん。せやなぁ、超本気で中に乗り込んだろか。
俺はドアの横に背中をつけて臨戦態勢に入る。ついでにノリノリで、目に見えない空想のコルトに弾を詰めて、安全装置を外す。それを両手でしっかり持って、いつも通り一回深呼吸をする。そしてゆっくりとノブに手を掛けた。
「dante、俺やって! 開けんかい」
傍から見たら、相当マヌケやろなぁ。
超臨戦態勢の俺が、ドアの前でドラマのFBI捜査官並みに怒鳴ってるんやから。
ただ、おかしな事に三回呼びかけたのにdanteはドアを開けへん。
どうせ、嬉しそうな顔して、ゴキブリのおもちゃ持ってんねやろと思ってたんやけど、ちょっとおかしい。
「dante? ゆり?」
俺は二人にそう呼びかけて、返事がないのを確認するとノブを回した。
何故かノブは軽々回って、とっさに俺はおかしいと気づいた。
ゆりはともかく、あのDanteがちゃんと鍵を掛けへん訳がない。そりゃアイツ、閉所恐怖症かなんか知らんけど、密室に閉じ込められると大泣きするけど(一回俺がイタズラして、過呼吸起こしてたし)、今はゆりも一緒の筈や。大人しく鍵掛ける筈や。
俺はドアに体当たりすると、そのまま部屋に前転して乗り込んだ。武器こそないけど、俺はぐっと拳を握って周囲を見回す。
思った通り、そこには誰もおらんかった。
| スタートリガー社の工作員達 | 22:19 | comments(0) | trackbacks(0) |

スタートリガー5

意外な事に置き手紙が、こたつの上に残っとった。
『Danteは貰って行きます。ごめんね、支部長』って、ピンクの名刺くらいのカードが一枚。しかも、裏には真っ赤なキスマーク。誰やお前は?! 不二子ちゃんか!! しかも支部長がルパン三世かい!! カードを見ながら、Danteを心配するより先にそんな事考えてもたで。
茫然と立ち尽くしとったら、急に背中から誰かに押さえつけられた。
何事かと思って、そっさに俺はその腕を掴んで逆にひねりあげた。
もうこれ、癖やで。いつ、殺されるや分からん生き方しとると、こういう事態に対処すんのがスーパーコンピュータ並みに早よなる。相手が誰かより先に、その腕をがっちり掴んどったもん。
で、目の前に現れて、喚いてる女の子に気づいて俺はぱっと手を放した。勢いで、その子は床に倒れこむ。
「あっ、ごめん」
長い髪の毛で細い腕、足だけは筋肉質でがっちりしとる。派手な格好やしすぐに分かった、ゆりや。
どうやら、押さえつけようとしたんやなくて、抱きついてきただけやったらしい。
「ごめんちゃうわ! 何してくれんねん」
ゆりは振り向き、俺を真っ直ぐ睨み付けた。
「癖やねん。ごめんやで」
俺はゆりに手を貸して立たせると、なるべく優しく尋ねた。
経験上、こういうタイプの女の子は怒らせるとめんどくさい。しつこいし、後が怖い。せやから、こういう時は紳士の振舞が大切や。何人の女の子泣かしてきたか分かったもんじゃない俺が言うんや。間違いない。
「まあええわ、それよりDanteが連れてかれてもてん」
「よぅゆり無事やったなぁ」
「ドアが開いたから、とっさにトイレに隠れたんよ。Danteは鍵の掛かるとこ嫌やとか訳の分からん事言うてて」
「ああ、納得」
俺は頷くと、ゆりを上から下まで確認する。
「ケガはない?」
「うちは大丈夫」
「じゃあいいや」
俺はゆりの手を引いて外に出た。
まずは支部長を探して、一緒にゆりから事情を聞く。今はそれくらいしか出来ひん。
権限もないし、Danteとじゃないと組ましてもらえへんようなへちょい工作員やもん。やっぱり、いじめっ子ボコッたあかんで、女の子いじめとる卑怯者でもや。真面目に空手習っとくべきやったもん。こういう時のために。
「どこ行くん? Dante放っとくん?」
ゆりが不安そうに俺を見上げる。
俺は立ち止まって答えた。
「ちゃうよ、支部長を探すんや。Danteの事、どないしたらええか聞きに」
「今追っかけたら追いつけるって!」
「でも、相手一人とちゃうやろ? 俺一人じゃ無理や」
俺ははっきりとそう言って、真っ直ぐ支部長室に向かってまた歩き出す。ゆりがちんたら後ろをついてくるけど、その表情は完全に俺の事、疑っとるな。
まあ、しゃぁないよな。突然俺が工作員とか聞かされて、今日知り合ったばっかりのDanteがこれまた突然連れ去られたら疑いたくもなるわ。
「なぁ、ルノ」
ゆりが俺の腕を軽く引いて言う。
「何?」
「ホンマにルノ強いん?」
「失礼やな。黒帯なんはホンマやで」
俺はそう答えて、開きっぱなしの支部長室のドアの横に立って、ゆりを先に通す。
ここは紳士を気取っといた方が得策やって頭の中で計算する。ゆりに今更キレられても困るやん。普段の俺は騎士道精神のカケラもない奴やけどな。確かに女の子を酒で酔わせてたらしこむ時にはエセ紳士になるで。その方が簡単やし、他のチャラい連中を蹴落とすのも楽や。女の子かて、結局は人間や。口が上手くて紳士的な男は、どんなバーやクラブでもモテるもんや。十四の時にクラブの用心棒にベロンベロンの女の子を提供して、入れてもらった俺が言うんや。間違いない。
でも、ゆりには逆効果やったらしい。
めっちゃ真顔で
「ルノ、どないしたん? キモイで」
とか言われてもたもん。
先言うとっけど、俺は今まで女の子に袖にされた事だけはない。ホンマ、マジで。ナルシストちゃうで。そりゃ、自分の容姿が軽く見積もって上の下くらいなんは自負しとる。俺がとんでもない遊び人って知ってる真面目ちゃんに関しては別やけど、俺のナンパの成功率は95%ってとこや。その気になればラブラブなカップルから女の子寝取るくらい屁でもない。
で、こういう容姿やと、上手く言うだけで大抵の希望は通るもんや。
せやから結構本気で紳士気取ったつもりやったのに、キモイとか言われてかなりショックやった。
「酷っ」
俺は思わず呟いた。
そんなやり取りに気づいたらしい、支部長がこっちに目を向けてくる。
「どうした、ルノ。Danteは?」
「その事で話があんねん」
支部長はガラスまみれのソファーに座って頭を抱えた。
「誰に連れ去られたんだ?」
俺は黙ってあのカードを支部長に差し出す。
だってDanteを連れ去った相手が誰か分かれへんねんもん。ゆりが見てたかもはっきりせぇへんやん。トイレに逃げ込んだんやったら、声も聞いてへんかもしれん。Danteごときが暴れたところでこの手のプロには痛くも痒くもないやろからな。
支部長はカードを裏っ返してデカい溜息をついた。
「なんだこれ、ふざけてるだろ」
俺は頷くしかなかった。
「俺も思った。誰やと思う?」
「きっとMirandaだ。工作員で唯一行方不明なんだ」
支部長はそう呟いて、俺とゆりを見た。
ゆりは不思議そうな顔をして、俺と支部長を見る。
「ゆりはトイレに逃げ込んだらしいんやけど、Danteは閉所恐怖症やろ? それで捕まったみたいやねん」
「ああ、なるほどな」
あっさり納得した支部長は、ゆりに尋ねた。
「声とか聞こえたか?」
「ううん、全く。Danteが喚いてたんは聞こえたんやけど、なんか複数いたみたいやったし隠れてたんや」
ゆりは静かにそう答えた。
俺も支部長も溜息をつくしかなかった。
「アイツ、何回こういう目に遭ったら隠れるっていう選択肢を覚えるんだ?」
「無理ちゃう? いっそ精神科にでも連れてったら?」
「それも無理だ。Danteは病院も嫌いだしな」
支部長は頭を抱えたまま、ちらっとこっちを見た。
「仕方ない。ルノ、一緒に来い」
「どこ行くん?」
「このカード、心当たりがあるんだ」
「分かった」
俺は大人しく支部長に頷いて答えると、ゆりを見た。
「一人にして悪いけど、俺の部屋で待っててくれる?」
「それはええけど、大丈夫なん?」
支部長は何故か余裕の表情で頷いた。
「大丈夫だよ、心配しないで遊んでてくれ」
俺はゆりにPSPが俺の部屋のテーブルの上にある事を伝えて、カードキーを外した。皆は首から吊るしてるけど、お気に入りのペンダントと絡まるから俺はズボンのポケットに引っ掛けてる。ちょうど支部長がカードキー外そうとしてわたわたしてるけど、俺は一瞬や。
「これ使って。くれぐれも悪用はせんとってや。すぐDanteが気づくで」
「あのDanteがそこまで見てるん?」
「せやで」
俺はそう答えて、なるべくにっこりと笑って見せた。
ホンマは不安やったよ。だって、嘘かホンマか知らんけどターミネーターと二人でどこぞまでDante探しに行くんやもん。バックアップにDanteがおれへんのに大丈夫なんやろか。多分やけど、Danteがおらんかったら俺、とっくの昔に蜂の巣にされとるところやで?
でも、今そんなん顔に出てもたら、ゆりが不安になるやん。親友やもん。あんまり心配させたくない。
支部長はそんな俺とは対照的に、戸棚の裏からごっついマシンガンを引きずり出して、ちゃちゃっと準備を始めた。手際の良すぎる支部長に、俺はぎょっとした。確かにずっと鍵はついてるしデカいしなんやコレとは思ってたけど、まさか銃火器入ってるとは思わへんやろ? しかも支部長はしれっとした顔で、他のどの工作員より銃の組み立て早いし。
「ルノ、早く用意しろ。そこの使っていいから」
支部長はそう言って、マシンガンの入ってた戸棚に向かって顎をしゃくった。
興味津々のゆりから離れて、俺は戸棚の中を覗き込む。
いくらなんでも、ガチでターミネータなマシンガンばっかとちゃうやろ。一丁くらい、使い勝手のいい普通のベレッタとかある筈やん。じゃなきゃ、こんな銃ばっかりどんなタイミングで使うねん。
でもそんな予想もむなしく、戸棚の中で一番小さいのがまさかのコルトパイソン。いわゆるマグナムって奴や。熊退治にでも行くんか、支部長。
「バックアップとかどうするん?」
俺は仕方なく、一番使いやすそうなサブマシンを引っ張り出す。
「いらないだろ?」
真顔の支部長は俺を見る。
「そんなんでいいのか? もっとデカいの持って行こう」
「俺、普通の拳銃しか触った事ないんやけど」
支部長は笑って頷く。
「知ってる」
そして支部長はよいしょと呟き、マシンガンを担ぐとゆりを見た。
ゆりはドン引きって感じの酷い顔で、黙って俺と支部長を見とった。
それに気づいた支部長は、いつもの数倍優しい顔で笑って見せた。
「大丈夫、心配しなくても、ルノは強いし死なせないよ」
Danteが支部長の事好きなん、分かる気がする。こういう時、強いかどうかは置いといて、確かに頼れるもん。安心感はないけど。
「ゆり、大丈夫?」
黙ったまんまのゆりに、俺は尋ねた。
ホンマは肩叩いて、にっこり笑ったったらええんやろうけど、ゆりはめっちゃ不安そうな顔で頷くだけ。これ絶対、俺の事信用してへんやん。
「Danteはおれへんけど、俺やったら大丈夫やで」
一応、俺はそう声を掛けた。
「そのバックアップって何すんの?」
ゆりは唐突に言うた。
「監視カメラとかにクラックして、援護するんよ。電子ロック外すとか」
俺はそう答えて、ゆりをのぞき込む。
なんか嫌な予感がする。ゆり、なんかいらん事を考えとんちゃうか。
「それ、うちやる。電子ロックは外されへんけど、監視カメラやったらなんとか出来るかもしれへん」
支部長が嬉しそうな顔をする。
それと同時に、俺は溜息をついた。
はっきり言うとく。
俺はこんな汚れ仕事やってるとこ、ゆりに見られとぅない。Danteに見られてんのですら、ホンマは嫌やねん。だってやで? 液晶越しかもしれんけど、俺は確かに人を殺して歩くんや。返り血浴びて、誰かの流した血を踏んで……。どんな理由やろうと、人殺してる事にかわりないんや。イカレとる訳やないところがジェイソンよりタチ悪いと思うで。
Danteは見慣れとるかもしれんし、小さい頃から支部長みたいな凄腕(って噂の)工作員と仕事してるから何とも思わんかもしれんけど、それでも、俺が人殺しなん知ってほしくなかったもん。いい子(年上やけど)なんは確かやし。
「ゆり、こういう事には関わらん方が絶対ええって」
支部長はそうだなと頷きながらも言った。
「でも今、信用できるクラッカーもいないし、仲のいい者で組んだ方が上手くいく」
「支部長、俺は反対やで」
「今は揉めてる暇もないし、仕方ないだろ?」
「他のクラッカー呼んだらええやん」
「ルノやDanteみたいに助けにも来れない連中を、か?」
支部長の言うてる事はもっともや。
でも、俺はあくまでコン専のルノ意外の顔、ゆりに見てほしくなかった。
フランスで散々遊んできた事も言うてないし(多分、Danteも知らんのちゃうやろか)、出来ればこのまま親友でおりたいんよ。
強い目でゆりは俺に言うた。
「このままやったら厳しいんやろ? うちも手伝う」
こうなったらゆりは止められへん。
Danteの事も放っとかれへんし、しゃーない。めっちゃ嫌やけど。
「ルノ、Danteのデスクに連れて行ってあげるんだ。準備が出来たら戻ってきてくれ」
俺はデカい溜息をついて頷いた。
「了解」
 
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| スタートリガー社の工作員達 | 22:51 | comments(0) | trackbacks(0) |

スタートリガー6

JUGEMテーマ:小説/詩

ゆりはやたらとテンション高かった。
ゆりと反比例してテンションの低い俺は、なんやめちゃくちゃ重く感じる足を引きずってDanteのデスクに向かっていた。
Danteのデスクは情機部のオフィスの隅っこにあって、白いパーティションで区切られてる。パソコンがごついし液晶ディスプレーが三つもある上、おもちゃだらけやからエライ狭く見えるけど、オフィスの中では広い方らしい。
一際目立つ、ラジコントイレがでーんと乗っかったパソコンですぐ分かる。動くんよ、トイレが。ちなみに和式やで。支部長がDanteの誕生日にあげたらしいんやけど、いっつもトイレットペーパーを丁寧に敷いて、かりんとうとかのせよるんよ。
それを暇つぶしにオフィスで走らせてるから、最近情機部ではDanteの事を影でトイレとか便器とか呼んでるらしい。本人には言わへんけど。まあ、知ったところでDanteやったら喜びそうやけど。
「あれやで、トイレあるとこ」
ゆりがドン引きでそのデスクを眺めてた。
流石のゆりも引いてるやん。
「なあ、ルノ。本気で言うてる?」
「本気やで。あれ、Danteの宝物らしいから壊したら泣くで。気ぃつけや」
今日はまだマシな方やで。
酷い時はゴキとかミミズのおもちゃでごちゃごちゃやもん。今日はちゃんと足元の赤いバケツの中に使い込まれたルービックキューブと一緒におさまってる。なんやこっちを睨んでるエイリアンのフィギュアを避けたら十分パソコン使えるわ。液晶の横でカッコつけてる赤いコートのあんちゃんのフィギュアが似合わな過ぎてシュールやし、ホンマこのデスクは目立つで。
ゆりがちょっとびっくりした様子で言うた。
「ルノ、Danteってこういう趣味やったん?」
「せや。そのエイリアン女の子らしいし、仲良ぅしたってな♪」
クラッカー連中がパーティションの影からゆりを眺めてるけど、ゆりはトイレやら害虫やらに目を奪われて気ぃ付いてへん。なんか不安になってきた。
ゆりの事やから、へにゃへにゃしたクラッカー連中くらい放っといても大丈夫やろけど、それでも心配やん。仮にも女の子やし。
「なんか面倒な事になりそうやったら、遠慮なく俺の事彼氏とかテキトーに言ぅてくれてええで」
「大丈夫やって、あれくらい自分でどうにか出来る」
ゆりはそう笑うと、俺を見上げる。
「ルノこそ、気ぃつけや」
俺はほっとして頷いた。
「ターミネーターが一緒やから大丈夫やで」
「なんやそれ?」
ゆりは不思議そうやったけど、パソコンの電源を入れてすぐに嬉しそうな奇声を上げた。多分、パソコンが凄いんやろな。Danteのパソコンがめちゃくちゃ高スペックって言うのは聞いた事あるで。でも、Danteがその超高スペックパソコンの上にゴキブリ並べてるところくらいしか見た事ないんよ。そんなに凄いんやろか。パッと見分かれへんけど。
「じゃあ、このタブレット貸すからSkype繋いでてや。それで連絡取るで」
「いえっさー!」
なんかノリノリのゆりの返事に溜息をついて、俺はiPadをゆりに渡して踵を返した。
ホンマはめっちゃ嫌やった。
銃を撃って、返り血浴びて、その人の血を踏んで歩く姿を見られるんやで?
そりゃ映画で見る分にはカッコいいと思うで。俺も昔、スパイものの海外ドラマにハマっとったもん。憧れたわ。でも、シャンゼリゼの近所にあった自分ちにマリファナの匂いぷんぷんさせながら帰って、家族全員の死体を見っけてから気が変わった。そんなええもんとちゃうで、ホンマに。
そんなロクでもない姿を見られるくらいやったら、支部の中を素っ裸で歩けって言われる方がまだマシや。小説とかではこういうんやっけ? 一糸まとわぬうんたらかんたらってやつ。まあ俺が素っ裸さらしたところで、喜ぶ女の子なんて、この支部にはおらん気ぃしかせぇへんけど。食堂のおばちゃんがバスタオル持って追っかけてくるくらいなもんやろ。
それに、裸にはそこそこ自信もある。
Danteは絶対ついてけぇへんし、来たとしてもランニングマシンの上にミミズ並べて遊んどるけど、俺は真面目に支部のジムに通って体鍛えてるもん。腹筋にはそこそこ自信ある。色白なところがちょっともったいないけど、これでちゃんと日光浴びてたらめちゃモテると思うんよ。マジで。
Danteに至ってはまるで興味なしやけど。
とにかく、こんなん嫌やったんよ。
ずっとステーキとかバーベキューとか焼肉とか大好きやったのに、今じゃ焼けた肉でも見るのがつらい時があるくらい。テレビで銃声が聞こえたせいで、トイレに頭を突っ込んでなあかんのもしょっちゅう。
そんな俺の姿、見てほしくなかった。
ホンマはDanteにかて見てほしくないけど、アイツはお兄ちゃん面していっつも水とか持ってきてくれる。情けなくて、自分が怖くて、鍵掛けて泣き喚けたらどんなに楽になるやろと思うくらい。でも、そういう時に限って、Danteは俺の横に座って背中をさすってるから、堪えるしかないんよ。
今は本気で逃げたかった。
ずっと逃げてきたのは分かってるけど、そんなん比じゃないくらい。
でも今、もし俺が逃げたら親友がどうなるんか分かったもんやない。
俺はゆっくりと廊下を歩いた。
「ルノ、大丈夫か?」
支部長が、優しい声でそう言った。
「あんまり」
俺は短くそう答えると、支部長に尋ねた。
「支部長は、こういう仕事嫌になる事はなかったん?」
「あったよ」
支部長はBlueToothのヘッドセットを耳に引っ掛けながら言った。
「そういう時、どうしてた?」
「帰ったらどうするのか考えるんだ。Danteと遊んでやろうとか、映画見ようとか」
支部長はにっこりと笑った。
「帰ったらゆりちゃんとDanteと三人で、パーティーしたらいいだろ?」
「パーティー?」
「そうだ、そのためにはDanteを連れて無事に帰って来ないといけないだろ?」
「まあ、そうやけど」
「じゃあ頑張らないとな」
支部長はそうカッコよく笑って見せると、俺の背中を叩いて歩き出した。
「ところで、そのスカイなんとかってやつはどうしたらいいんだ? 使った事がないんだ」
ちょっと時代遅れな支部長に吹き出して、俺は俺の以上に使ってなさそうなサラピンのiPadを受け取ってセットした。ちゃっかりDanteが俺と支部長のだけは設定してたみたいですぐに使えてホッとしたわ。俺、洗濯機以外の機械には嫌われとるみたいやから。何故か俺の使うパソコンはいつもエラーとか出るもん。いっつもDanteに笑われるけど。
ゆりに渡した俺のiPadに自分のiPhoneでグループ会議を繋いでゆりに声を掛けてから支部長の分も繋いだら、準備完了。
不思議そうにiPadをひっくり返してる支部長に、笑ってたらゆりが言うた。
「ルノ、これってあのおっちゃんも繋がってんの?」
「繋いだで。ジェームズ・ボンドって支部長な」
「マジで言うてる? ジェームズってそういう事?」
笑い出すゆりに、支部長がちょっと恥ずかしそうに言った。
「いいだろ。昔、その映画が好きだったんだから」
「いいと思う。凄いいいと思う」
笑ってるゆりに、俺もつられてちょっと笑った。
なんか大丈夫な気がしてきた。
支部長、やっぱりええ人やで。絶対。
 
| スタートリガー社の工作員達 | 21:10 | comments(0) | trackbacks(0) |

スタートリガー7

JUGEMテーマ:小説/詩

ゆりは絶対映画の見過ぎやと思う。
だってさっきも二時の方向に銃を持った奴がおるとマイクに向かって叫んでたもん。確かにおったけど、俺と支部長から見て十時の方向やったし。せめてDanteみたいにソファーの向こうとか言うてくれへんかな。
俺は掃除用具入れの陰で銃に弾を詰めてる。準備は大事やで。身を守るんは結局銃やもん。銃口を向けられたら、空手が黒帯でも関係ないから。
支部長は横でメントス食っとる。そう、のんきにコーラ味のメントス食ってんねん。ホンマに焦ったで。緊張感なさすぎやろ。
支部長がターミネーターなんは認めるで。
ホンマに強かったもん。ここに乗り込んで来た時も、余裕で全員をフルボッコにしとったから。それに今のところ、殴り倒すばっかりで銃はほとんど撃ってへん。これで、現役引退してしばらくって相当やと思う。
マジで、現役で働かされてる俺よりよっぽど強い。
でも、敵の本拠地(と思われるビル)に乗り込んだにしては、のんきすぎひん? メントスやでメントス! 水ならまだ分かるけど、おかしいって。
あっけにとられて眺めてたら、支部長はにっこりして、食うか?とか言い出した。
ほしくて見てるんちゃうわ。今それどころちゃうから。いらんっちゅうねん! 言うたろかと思ったけど、ぐっと堪えた。俺、めっちゃ偉いと思う。ここは俺が大人になるしかあれへんと思ってんもん。
支部長はそうかとにっこり笑うと、また一粒口に入れる。
「ジェームズ・ボンド何してんの?」
ここには監視カメラがないから声しか分からんゆりが、不思議そうに支部長に言うた。
「メントス食べてる」
もごもご言うてる支部長に代わって俺が答えた。
「ええなぁ。ルノは食べへんの?」
「今そんな気分やないんや」
支部長と同じく超のんきなゆりに溜息をついて、俺はベレッタの最終確認を終えた。行こうと顔を上げたら、支部長は頷いて立ち上がった。
ホンマにこの人、凄腕工作員なんやろか。
工作員らしくこのビルの裏口を探してる俺に、正面から行けばいいじゃないかとか言い出すし、隠れもせんと廊下を突っ切るから、掃除用具入れの陰に隠れる羽目になるんよ。
それにしても意外やった。
支部長はあのピンクのカードを見ただけでHeaven'sGate社やって言い出したんやもん。字に心当たりでもあったんやろか。ただの勘にしては支部長、めっちゃ真顔やったし。
そんな訳で、俺は今日の昼に乗り込んだビルにまた乗り込んでる。
「お嬢さん、紅茶はいかが?」
ゆりがなんか楽しそうにエイリアンと会話しとるけど、うんざりしてきた。俺、あの映画見たけど、シガニー・ウィーバーが美人やった事くらいしか覚えてへんもん。そもそも、ゆりは映画を知ってるんやろか。そもそも、エイリアンは紅茶飲まへんと思うし。飲むんやったら人間の血ってとこちゃう。
「ゆりちゃんは何と喋ってるんだ?」
めっちゃ不思議そうな支部長に、俺は親切に教えてあげた。
「Danteのデスクの上におるエイリアンのエイ子さん」
「ああ、Vivianがやったあれか」
「誰それ?」
「妻だよ」
支部長は爽やかに笑うと、俺に言った。
「帰ってからゆっくりDanteに聞いてみろ。Danteがよく知ってるから」
「何でなん?」
「Vivianも元工作員なんだよ。いつも私と組んでたんだ」
ふーんとあんまり聞いてへんかったけど、支部長は嬉しそうやった。
なんでも、晩御飯はうどんらしい。具材ぶち込むだけやんとか思ったけど、もしかしたらちゃんとだし取ってんのかもしれんから黙ってた。
俺もよぅ姉ちゃんらに飯作ってたから分かる。基本、野菜炒めやけど、面倒やん。それに時間かかるし。ちなみに俺の得意料理は味噌鍋やで。つみれと味付けは結構評判ええんよ。
ごめんな、フランス料理やなくてがっかりやろ? Danteにも言われたで。
俺は真面目に支部長に尋ねた。
「仲ええん?」
「基本的には良い方だけど、キレたら殺されるからな。怖いぞ〜」
笑って見せる支部長の様子からして、多分そんなになんやろけど、後でDanteに聞かんなアカン事が出来たで。これで一晩中Danteに話が聞けるやん。
俺はこっそり笑いながら、支部長と外に出た。
ここのビル自体はDanteが事前に調べ取ったからデータも残ってたし、乗り込んでくるのは簡単やった。流石に前と同じ道はヤバいと思って意図的に避けてるけど、そんなに困る事もなく最上階まで来れた。
この会社がなんやよぅ分からん事してるんは知ってたで。一応大企業やし、表向きには社会奉仕活動がどうしたとか言うてるけど、裏は真っ黒。ロシアとかと繋がってんちゃうかと言われてる会社や。この会社関連の仕事は確かに多いもんな。
問題はDanteがどこにおるか分かれへん事や。
この会社ってデカいし、よぅ分からんセキュリティルームとかも山ほどある。ゆりはクラッキングは出来ひんて言うし、そんなヤバい所に堂々と乗り込める筈がない。
今は静かにこそこそしながら情報収集しかない。
ときどき見つける銃を持った奴を上手いこと脅して、口を割る奴を見つけるしかない。こっちがあんまり撃たへんからか、揃いも揃って、誰も口を割りよらへんねん。信じられへんわ、ターミネーターに脅されてんのに。確かに、殺そうとする支部長を何回か止めたけど。
俺はそんなちょっと怖い支部長の後ろを歩いた。
一向に手がかりも見つからへん。
支部長が呟く。
「アイツ、無事だろうか」
「大丈夫やって。ゴキブリみたいに生命力あるって」
俺はあんまり自信もないのにそう言った。
少なくとも、今はそう信じたかった。

 
| スタートリガー社の工作員達 | 21:08 | comments(0) | trackbacks(0) |

スタートリガー8

俺はドアを蹴破った。
やっとゲロった男の言葉を信用して、俺は支部長と一番上の階の社長室に乗り込んだ。なんでもそのオタク系のおっさんの話によると最近、よぅ分からんけど俺くらいの年の子達が出入りしてるらしい。さっき結束バンドで縛られた男の子がそこに引きずり込まれたらしい。まあ、十中八九Danteの事や。俺より相当年下に見えたみたいやけど。
支部長が勢いよく中に乗り込んでいく。
まさにターミネーターって感じに両手に銃を抱えて乱射。どう考えても危険人物やで。Danteに当たったらどないしよとか考えへんねやろか。やっぱり、こういうところがターミネータかもしれへんで。
俺は支部長を援護しようと銃を持って静かに中に入ったけど、目に入ってきたのは支部長に抱きついて泣いてるDanteだけ。あとはほとんどぶっ倒れた連中だけ。死んではいてへんみたいやけど。
俺は辺りを確認しながら二人に近づいて行った。
「Dante、ケガないか?」
Danteはすでに泣きじゃくってて、支部長が代わりに大丈夫そうだよと答えただけ。よっぽど怖い思いでもしたんやろかと、俺はしばらくそのまま警戒する。
どうやら社長室には結構昔からMirandaが出入りしてたらしい。立派なデスクの上にはMirandaの社員証が置いてあった。それもうちの会社のんやない。Heaven'sGate社って書いたあるで。これって二重スパイやったって事やろか。
俺は黙ってその社員証をズボンのポケットに入れると、泣き止みそうもないDanteを見る。
「支部長、どうすんの?」
「なんとかなるって」
そんな軽いノリの支部長に、俺は溜息をつくしかなかった。
ゆりが言う。
「なんか、階段上ってきたで。援軍ちゃう?」
「援軍って、そんなにおるんか?」
「いや、五人くらい」
「それ、応援って言うんやで」
俺はゆりに呆れながらそう言うと、黙って出迎える準備をする。ソファーを引きずってきてデスクと一緒に並べると、転がってる人らの手から銃をもぎ取りデスクの裏に向かって放り投げる。
「支部長、早よしてや」
俺はそういうと最後に辺りを見回して、きっちり確認してからデスクの裏に回ってしゃがんだ。床に散らばる銃を見て、俺はDanteに言う。
「すぐ撃てる状態にしといてや」
「ルノ、オレ銃なんか触った事ない」
Danteがそう、困った顔をする。
俺は仕方なく、支部長と一緒に銃の準備を開始する。座り込んで不安そうに支部長にくっついてるDanteがつらそうにしゃくりを上げた。
よぅ見たら、所々に擦り傷があるみたいや。でも、そんなくらいでDanteがこんなに泣くんやろか? 確かにDanteはよく映画とかゲームとかしてて感動して泣いてるけど、自分の事で泣いてるのは見た事がない。誰にどんな言葉を浴びせられてもケロッとしてるくらいや。
俺は帰ったら聞きださんなアカンなと心の隅っこで考えた。
乗り込んで来たのはどうやらMirandaらしい。
ちょっと高めの声ですぐに分かった。
「なにこれ、皆ヘボすぎ」
俺、あの女だけは好きになれへんわ。ジャメルに口説けって頼まれても絶対無理。多分、スピリタスの一気飲みしてて意識なくてもゲロ吐くレベル。俺にかて、趣味っちゅうもんがあるんやから。
きっと俺と同意見のDanteが泣きながら支部長の白いシャツに顔を押し付けて肩を震わせとった。
俺はDanteの代わりにMirandaに言うた。
「お前の仲間、カスやのぅ」
「ルノ、来ると思ってたで」
Mirandaはそう笑うと、嬉しそうに続けた。
「うち、いっぺんでええからルノと本気でやりあってみたかったんよ」
「そんなもん、俺が負けるに決まっとるやろ。なに言うとんねん」
俺はそう言い返して、デスクの陰から少し頭を出して様子をうかがう。
Mirandaはヤケに大人っぽい格好をしてた。赤いハイヒールに黒のワンピース。髪の毛は珍しく垂らしてて、がっつりメイクしとる。この女、高校生ちゃうんか。こんなカッコで外を歩いとったら親が泣くで。俺の可愛い妹が(死んでもたけど)こんなカッコしてたら、きっと俺ショックで死んでまうわ。
「いけいけルノ! ぶっ倒せ!」
ゆりがちゃかす。アカンってコレ。気ぃ抜けるわ。
支部長が俺に声を出さずに口だけ動かして合図する。
でも俺、そこまで日本語流暢って訳やないんよ。そりゃ日常会話に困った事はないけど、本が読めるほどやない。そもそも漢字が読まれへん時が多いし、精々子ども向けのかいけつゾロリが限界や。そんな奴に口唇の動きだけで会話せぇなんて無茶振りにも程がある。コン専の教科書とか、三分の一も理解出来ひんからな。
理解出来ひん俺に、支部長は溜息をついた。
すまんなぁ、支部長。日本語が分からんくって。俺、フランス語やったら分かったんやけど。
俺、結局ほとんどフランスで生活してたし、バイリンガルって言うてもホンマに話せるだけって感じや。免許証なんて単語、使った事なんか一回もなかったし。
支部長は背中からDanteを引っぺがし、俺のところまでズリズリ移動してくると囁いた。
「おとりになるからDanteを連れて逃げろ」
そしたら泣いてたDanteが支部長に抱きついて泣き出した。Weepって感じじちゃうで。あれは誰がどう見たってCryの方。日本語で俺が知ってる泣くって表現は精々三通りやけど。ぐすんぐすんと泣くと泣き喚くや。でも、これ多分泣き喚くとはちゃう気がするな。
「嫌やぁ、Jamesと一緒がいいっ」
そのせいで、Mirandaに思いっきり支部長の存在がバレてもたで。ホンマ、このゴキブリうんこ頭! 現場じゃマジで使えへんやっちゃで! 二度と支部から出んな! 道頓堀にカーネル・サンダースと一緒に沈んどれ。永遠に浮いてくんな。
「支部長が出てきたん? 嘘やん」
俺は頭を抱えて、溜息をついた。
Danteがようやく自分がやらかした事に気づいたみたいやったけど、支部長は優しくDanteの頭を撫でて分かったから黙ってろと囁く。その顔があんまりにも強気で優しげやったから、俺は茫然としてもたで。
だって、こんな部屋の片隅に閉じ込められてる訳やん。こんな状況でよぅそんなん言えると思う。俺、今こそこの頭かち割って、中に入ってんのがホンマに脳ミソなんか見たくなったもん。意外とカラメルたっぷりのプリンやったりして。
不安そうなDanteを黙らせて、支部長はMirandaに尋ねた。
「そんなに意外か?」
Mirandaは全然物怖じする事もなく、はっきりと言うた。
「所詮他人やん。わざわざ助けに来るとは思わへんかった」
「よく言われるよ」
支部長はそう笑うと、ボロボロ涙を溢してたDanteの肩を撫でながら
「でもこいつは大事な家族なんだよ」
と言い返す。
流石の俺も見惚れてもたで。
きっと昔はめちゃくちゃモテたんやろなぁ。その奥さん、ホレる筈やで。誕生日祝おうとして、クラッカー持ってスタンバってるアホ面からは想像つかんへんもん。
その言葉にまたDanteが大泣きしだして、俺はちょっとうんざりしたけど。やっぱりこいつは道頓堀に沈めた方が日本が平和になると思うで。
「まあええわ。とにかくDanteを逃がすとうちがケイティさんに怒られるんよ。諦めて置いてってくれへん? そしたら見逃すって約束するから」
俺はそんなMirandaにちょっと殺意を覚えたけど、ぐっと堪えて支部長を見た。
支部長はそんな俺の予想に反して吹き出した。
「おい、聞いたか? ヤバいめちゃくちゃウケる」
全然ウケてへん俺とDanteを無視して、支部長は一人で笑い続ける。はっきり言うて全然おもんないんやけど。これやったらまだJavaの教科書を読んでる時のがおもろいで。いちいちDanteに解説を頼まんなアカンけど。
Danteが茫然としながら俺を見てくるけど、俺にも理解不能やったからなんやろなとばかりに肩をすくめるしかなかった。
「この程度のビルくらい、アフガニスタンに比べたらどうって事ない」
支部長はくすっと笑うと、俺とDanteに囁いた。
「合図したら撃て、Danteは動くな」
「了解」
俺はそう答えたけど、撃てるとは思えへんくって手が震えてた。
仮にも仲間やもん。ちょっと前まで、一緒に仕事してた気にくわん女やけど仲間やもん。それをゆりの見てる前で撃ち殺すなんて、俺には無理。そこまで俺は冷酷にはなりきれへん。
支部長はそんな俺に気づいてたんか、一人で堂々と立ち上がるとMirandaに向かって笑いかけた。俺もDanteも流石に支部長のズボンとかシャツとか引っ張ってそんな無謀な真似すんなと声にはせんかったけど、止めようとした。でも、無駄。
支部長は凄いしっかりと言った。
「教えてくれ、何故裏切ったりした?」
俺もDanteも茫然。この人、ホンマにイカれとんちゃうか? それか怖いっていう嫁さんに殴られすぎてアホなんかな。Danteはあんぐりと口を開けたまま、支部長を見つめてるだけ。きっと俺とおんなじ事考えてんで。
でも、誰も支部長を撃ったりせぇへんかった。
ただ、Mirandaが答えた。
「うち、はじめっからこのつもりやったよ、支部長」
「どういう事だ?」
「うちはHeaven'sGate社の工作員なんよ、元々」
淡々とした会話にゆりが割り込んでくる。
「なんや、この女。キモイって」
ゆりがマイクに向かって、ぐちぐちと言い出す。
あんまりにもうるさかったから、支部長はヘッドセットを外してこっちに投げた。俺は仕方がないからそれをDanteに渡して、ゆりにうるさいと囁く。
ようやくDanteがいつもと同じように役に立つ事を言い出した。
まずゆりに向かってよぅ聞いてと囁く。
「ゆりちゃん、現場の工作員の命はバックアップのハッカーの腕に任されてんねんで? そっから見てたらゲームみたいやろけど、ルノは命を預けてるんや、しっかりして」
珍しく、Danteが真面目な発言を続ける。
「敵の数は何人? 正確な場所と逃げるルートを確認して」
暇さえあればプリンかゴキブリしか言わへんDanteからは想像もつかへん顔やで。しっかりしてて、頼れるバックアップ。いつも、こんな顔で俺のバックアップしてくれてたんやろか。俺はちょっと意外やったから、しげしげとDanteを見つめてた。
「人数は四人で、正面のドアの前に固まってるよ。逃げるルートってどうしたらええん?」
焦ってるのがバレバレなゆりがそう言う。
Danteは比較的落ち着いた声で返す。
「オレの作ったクラッキングツール使ってるんやったら、画面の右下にビルの図面が出てる筈や」
俺はそんなん見た事ないから、静かにDanteとゆりの会話を聞いてた。支部長の声、二人のおかげで全然聞こえへんししゃーない。
「必ず工作員の目線と一緒の方向にその地図が回るようになってるから、それをよぅ見て案内するんや。この場所、オレが脱出ルートを設定してる筈やから脱出ボタンを押したら地図に線が出る」
Danteはそう言うと、支部長を見上げた。
逃げれるかとばかりに視線を向けたら、支部長は笑って頷いた。そして、俺が渡そうと持ち上げた小口径の銃をひったくって、一瞬で引き金を引く。迷いのなさと強い目に俺は寒くもないのにぞっとした。
乾いた音が響く。
支部長は冷静に引き金を何度か引き、そして、俺とDanteに向かって怒鳴った。そりゃもう、めちゃくちゃ怖かったで。支部長、マジすぎて。
「走れ」
俺はDanteの腕を引いてデスクの影から飛び出すと、そのまま走って死体を飛び越えた。早速死体にけつまづいてよろめくDanteを引きずるように、俺は走った。
後を追ってくる支部長が銃を乱射してるのがちょっと怖い。
あれだけ撃ったら当たりそうなもんやのに、Mirandaの罵声は相変わらず聞こえてくる。
純粋に怖いと思った。ホンマに。
ゆりの言葉に従って廊下を抜けていくと、屋上に出る。まさか飛び降りろとでも言うつもりか? それやったらいくらなんでも酷すぎんで、Danteの脱出ルート設定。もうちょっと人間業を駆使してくれへんかな。
「ちょぉ、逃げられへんやん!」
思わず叫ぶ俺に、ゆりは同じく叫び返す。
「うちに言わんとってよ、このプログラムのロジックが酷すぎるだけちゃうん?」
「このルートは緊急事態でヘリコプターが来てくれる設定のんや!」
「そんなルート、登録せぇへんでええっちゅうねん!」
そんな俺らの無意味すぎる言い合いに支部長が笑って見せる。
「余裕余裕♪」
「どこがや?!」
三人に怒られる支部長も相当やけど、追っかけてきたMirandaがこっちに馬鹿デカいライフルを向けてくる。
「今日は最強のクラッカーが現場にいるから無力やん、ルノ」
「何を言うとんねん。コン専で一番勉強出来るゆりがこっちにはおるんやぞ!」
だいぶと無理のある返しやったとは思うけど、Mirandaには分からんかったらしい。誰やそれと不思議そうにしてみせるだけ。アカンやん。全然聞いてへん。
「うち、そんなに頭はよぅないで」
そんなゆりを無視して、俺はMirandaに向かって怒鳴った。
「根性なし! 素手で戦ったらどないやねん!」
「根性なしやからデカい口径の銃なんやろ」
思いっきり負けてるやんと思いつつ、俺はなんとか時間稼ぎをしようと頭をフル回転させる。頭をくるくる振ってたんとちゃうで。念のため。俺の頭がフル回転したところで、多分高熱でうなされてるDanteよりロクな考えが浮かばへんのは確かやけど。
「Danteもアホやな。そんなんやから捨てられるんやで」
冷たい目でこっちを見ながら、Mirandaはそう言うた。
そしたら、Danteがまた泣き出した。座り込むと、わんわんと。
その姿を見て、俺は初めて気が付いた。
Danteはいっつもそんなとこ見せたりせぇへんけど、ホンマはめちゃくちゃ気にしてたんやって。天涯孤独っていうのは知ってるけど、そんなに知らんかったんは確かや。まさか捨てられて天涯孤独とは思わへんやん。
「ちょぉっ! Dante」
アカン。こっちの負けや。
こんなDanteお荷物でしかないやん。
「しっかりしてぇや」
でも、Danteにはなんにも聞こえてへんかった。泣きじゃくりながら、頭を抱えて震えてる。閉所恐怖症で過呼吸起こした時ですら、こんなに酷くなかったのに。俺は目を丸くして、茫然とDanteを見つめる事しか出来ひんかった。
そんなDanteにMirandaは笑った。
「泣いてたらまた捨てられんで? 可哀想」
とうとうDanteの泣き方がおかしくなってきた。前に見たから分かる。過呼吸起こしかけてんねん。この害虫男がそんなナイーブな奴には到底見えへんけど。
でも、そんなん俺にはどうにも出来ひんかった。
ガタガタと震えながら、青い顔してるDanteの横にしゃがんでる事しか出来ひんかったんや。
JUGEMテーマ:小説/詩
| スタートリガー社の工作員達 | 22:03 | comments(0) | trackbacks(0) |

スタートリガー9

 Danteは親友や。
 フランスにいた頃にもそう思ってた奴はおったけど、それよりも大事な親友やと思ってる。そもそもジャメルは不良仲間って感じやったし、ホンマに友達かって言われたら違うかもしれへん。つるんでただけな気もする。
 Danteは違う。
 俺の事、多分この世で一番よぅ分かってくれる親友や。
 初めて人を殺した時、取り乱して帰れへんかった俺のそばに一晩中いてくれた。仕事がつらくなると、よくプリンパーティして笑わせてくれた。忙しすぎてぶっ倒れた時は、支部長に直談判して仕事の量を半分まで減らしてくれた。
 一番の親友なんは確かや。
 でも、俺はそんなDanteの事を全く知らんかったんやと気が付いた。
 Danteが捨てられた事、支部で働いてる理由、なんであんなに悪趣味なんかも、俺は知らんかった。それでも、親友やと思ってた。だからどうでもよかったんよ。
 でも、俺は立ち尽くしたまま、どうしていいかも分からんとDanteを見下ろしてた。
 なんて言っていいかも分からんかったんよ。
 Mirandaは静かに俺と支部長を見つめながら、引き金に指を掛けた。
 この女がずば抜けていい腕のスナイパーなんは知ってる。一キロ先の人間の頭をやろうと思えば吹っ飛ばせる腕の持ち主や。点にしか見えへん的の真ん中をいたって普通のベレッタで打ち抜くんやもん。そんな女に勝てる筈がない。俺なんか、たったの十メートルでも的に当たらん時あるんやから。
 そんな俺に向かって、Mirandaは笑った。
「銃、捨ててくれる? こんな近距離で当てても面白くないから見逃したってもええで」
 ムカッとしたけど、ここで刺激したらマジで撃たれる。黙って睨み返すのが精々やった。いくら防弾チョッキ着てても、頭撃たれたら意味ないもん。この距離やったら、絶対当てるでこの女。
 Mirandaの仲間がやっと追いついてきた。
 三つの銃口を向けられて、俺はどうする事も出来ひんかった。今までもヤバい経験はしてきたけど、こんなん初めてやもん。無理に決まっとるやろ。
 Mirandaは支部長と俺が身動き出来ひんのを見て、スタスタとDanteに近づいてくる。いつもは美人で成長したらええ女になりそうなMirandaも、今は完全に工作員の冷酷な顔をしてた。最近Danteが遊んでたゲームに出てくるやったらセクシーな魔女みたいや。あれ、なんてゲームやったか忘れたけど。
 MirandaはDanteを見下ろして囁く。
「うちらやったら仲間を捨てたりせぇへんよ。一緒においで」
 その言葉を聞いてなんか知らんけど、キレた支部長があの巨大なマシンガンを撃った。一瞬で俺らを狙ってた連中が真っ赤な血を流して倒れる。そんで、それをあっけにとられて見てた俺が振り向いた時には、支部長がMirandaの腕を引っ掴み投げ飛ばしとった。これまたキレーに決まってたもんやから、思わず拍手しとなったで。お手本みたいやったもん。
「Dante、聞きなさい」
 支部長はMirandaにとどめは刺す訳でもなく、真っ直ぐDanteに駆け寄って行って優しく抱き寄せる。
「お前、まだ私が信用出来ないのか? 今まで私がDanteを見捨てた事が一度でもあったのか?」
 ちょっと厳しいけど、しっかりした声で支部長は続けた。
「前にも言っただろ? お前はうちのバカ息子だよ」
 そして最後にDanteの頭を小突いて、さあ行こうと笑って立ち上がる。
 まだ鼻水をすすってはいたけど、Danteはちゃんと立ち上がった。そんで、ぐちゃぐちゃの顔を支部長のシャツにくっつける。小学生かよとは思ったけど、俺はそれを飲み込んだ。
「ほかのルートは見つかった?」
「多分、そのまま待ってた方がいいと思うよ」
 ゆりはなんや楽しそうに言うた。
「どういう意味?」
 俺がそうマイクに向かっていちゃもんつけようとしたら、上から梯子が降ってきた。それも思いっきり俺の頭に直撃。なんて言うの、これ? 太い縄で出来とる梯子。軽いけど、足掛かりになってる部分は金属製のパイプになっとるから結構痛い。
 俺はぶつけた頭の後ろをさすりながら上を見た。
 黒いヘリコプターに見覚えのある顔がいくつかと、今日車を出してくれたあのおっちゃんがおる。
「支部長、ルノ」
 そう呼ぶ声にホッとして、俺は支部長とDanteに先行ってと促す。
 俺は吹っ飛んだ筈のMirandaを見た。
 てっきり頭でもがっつりぶつけて気絶したかと思ったんやけど、Mirandaはしっかり立ってた。仲間がMirandaに手を貸してた。
 俺はその味方とMirandaに向かって銃を向けた。
 距離は三メートル、これやったら流石の俺も外さへんで。
 でもその仲間の女が顔を上げた瞬間、俺はしっかり握ってた筈のベレッタを落っことした。めっちゃ本気で動揺したんよ。
 ホンマ、アホな事したとは思うで。あの二人にいつ撃たれてもおかしくなかってんから。
 でも俺が動揺しても無理ないと思うんよ。
 だってな、Mirandaの横におった女、ブルネットでちょいアジア系の顔したスタイルだけは抜群の女やったんよ。顔は俺の好みやないで、あの顔やったらまだDanteが女装してる方が可愛げがあると思うもん。少なくとも、自分のパンツくらいちゃんと洗濯出来るDanteのがいい。
 俺はその死んだ筈の顔に向かって呟いた。
「姉ちゃん」
 
 
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| スタートリガー社の工作員達 | 22:41 | comments(0) | trackbacks(0) |
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