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スタートリガー 1

JUGEMテーマ:小説/詩
 俺はぼんやりとホワイトボードを眺めとった。
 その前では宇宙人語にしか聞こえんc++の解説をする先生が、これまた催眠術かと言いたくなる声でダラダラ喋っている。

 そもそも理解不能なとこに、この声やで? そりゃ眠くもなるで。

 クラスは全滅。

 起きてんのは俺と、横で楽しそうに落書きしてる友達のゆりだけ。ゆりにいたっては授業そっちのけやからなぁ。完全に遊んどる。

 俺は重すぎの瞼をこじ開けようと、レッドブルを流し込んであくびを堪えた。

 ふと手元のiPhoneが震える。

 画面にはLineで今日のお仕事終わったら遊びに行こう(^^)とふざけた事を親友で仲間のdanteが送ってきた。

 danteは気楽でええわ。

 そもそもスタートリガー社で一番のクラッカーで基本プログラムを組んでるだけやもん。政府機関にもちょちょいのちょいでクラック出来るし、俺みたいに血を見る仕事やない。(液晶越しには見てるかもしれんけどな)

 羨ましいわ。ホンマに。

 とはいえ、俺もdanteみたいになりたいがためにこの大阪梅田のコンピュータ専門学校に通っとるんやけどな。

 せや、いたって普通を装ってはいるけど、俺は工作員やってる。

 四年前まではフランスで不良少年やっててんけど、スタートリガー社で工作員をしとった両親が死んだんや。詳細は知らんけど、仕事中にミスったって聞いてる。蜂の巣になった死体を見て、俺はめちゃくちゃ好きやったスパイものの海外ドラマを見れんくなったっけ。

 俺は昨日も真っ赤に染まった自分の手をじっと眺めた。

 毎日毎日、学校帰りに会社行っては、変装してコルトを握るんや。ちょっと前までは安全装置の外し方も分からんかったのに、今じゃ分解するのも一瞬やで? 悲しぃなるわ。

 んで、その悲しい気分のまんま会社に戻って返り血を流しにシャワーして、気楽で楽しそうなdanteとちょっと話して帰るんや。そんで家に帰ったら一人で部屋にこもって、なんで俺がこんな思いせなあかんのかって仕事中に死んだおかんとおとんを恨む。こんなんばっかり無限ループしとったら恨まずにおれへんで。

 あと三十分。三十分経ったら仕事や。danteにバックアップを頼んで、またどこぞの会社に潜り込んだり政府の情報を盗んだくそったれを撃ち殺しに行くんや。それが実際に何をしたんかまで俺は教えて貰われへんけど、きっとそいつが殺さなあかん奴やって信じるしかない。

 そう思うと気が重い。

 ゆりや他の友達は皆、俺がスタートリガー社で電話係のバイトしてると思ってる。確かにフランス支部とかの電話はたまに俺が出て翻訳するけど、でもたかだか電話係のバイトやで? 多少嫌な上司がおっても暇で楽で基本楽しい筈やん。あんまり顔に出せば怪しまれるから必死で隠しとる。

 先生が珍しくチャイムが鳴る前に今日はここまでと立ち上がった。先生も早よ帰りたかったんやろ。気持ちは分かる。でも、人を殺さんなあかん仕事してる俺にしてみれば、人間関係なんて羨ましい悩みや。こんなクソみたいな人生送らんでいいんやったら、俺はどんな汚れ仕事でもやるっていうのに。

 クラスのほぼ全員が眠そうにのろのろと立ち上がる。

 俺はうんざりしながら立ち上がり、自分の荷物をまとめてリュックに入れる。

 きっとdanteが準備して待ってるに違いない。アイツ、いっつも遊んでるようにしか見えへんけど、他の社員の倍の仕事してるらしいって聞いた事ある。ゆりにしてもそうやけど、賢かったり仕事の出来る奴って、み〜んな遊んでるようなイメージしかあれへんわ。

 俺はそんな事を考えながらスケ子さんとかいう、相棒とか言うてるスケボーを持って立ち上がるゆりと教室を出た。

「ルノ、今日もバイト? 頑張りやぁ」

 ゆりはそう言って俺の肩を叩いた。

「うん、行ってくるわぁ」

 俺は頷いて、すぐ近所にあるスタートリガー社日本支部のちっこいビルに向かう。

 今日も時間通り頭の上を走っていく環状線を見ながら思う。

 フランスにいた頃が懐かしぃて、寂しぃて、なんや複雑な気分や。

 こんなふうにゴミゴミしてなくて、毎日路地裏で仲のいい友達と悪さして、偽造ID片手にビール飲んだりタバコ吸ったり、毎日めっちゃ楽しかった。こんな鬱陶しい大阪弁も聞こえへんし、女の子は皆かわええし、天国やった。

 皆、俺がこうペラペラ大阪弁やから勘違いするけど、俺はあくまでハーフのフランス人。確かに半分は日本人やけど、俺はおとん似やからどう見たってフランス人や。背も高いし、頭はパツキン、目ぇなんか青いし、日本で道を聞いたらそっぽ向かれるような有様やで。日本人のおかんに似てるとこと言えば白人にしか見えへんのに産毛がめっちゃ薄い事と料理が得意な事だけや。

 しょっちゅうdanteの家でご飯作ってるけど、おかんの味やから、得意料理は味噌汁とか海鮮丼とか、基本和食や。たまにフランス料理作ってくれって言われるけど、俺が作れるフランス料理ってほとんどない。せいぜいそのへんにあるもんで作った適当マリネとかそんなん。だってぶっかけるだけやもん。danteはカタツムリとか食べたいらしいけど、日本じゃ売ってへんし高いし面倒で作った事ない。

 支部は学校のすぐ近所やからすぐ着いた。

 このくそったれなスタートリガー社自体は世界的な結構大きい企業やからそれなりに大きいビルがもっと繁華街の方まで行ったらある。でも俺が働いてるんはあくまで存在しない事になってる情報機密部や。せやからオフィス街の端っこのボロくて小さいビルにある。

 確かに小さいとはいえビル一軒が全部スタートリガー社やから結構広いし、中は最新機器で超がつくほどきれいや。奈良まで帰らなあかん俺やしょっちゅう呼び出されるdanteは、支部の中に別で部屋もあるから帰れんくなった時は泊まれるようになってる。俺としてはあんまり使いとぅないけど、結構な頻度でお世話になってるんは確かや。

 俺はそんな今にも崩れそうなきっちゃないビルの重たいドアを開けて、エレベーターのボタンの前で社員証をかざした。

 これがないと中に入れへんようになってる。初めて来た時はちょっとテンション上がったけど、今となっては普通でしかなくてあんまり気にせずエレベータに乗ると上から三つ目の特殊工作課のボタンを押した。

 俺はiPhoneの電源を切りながら、エレベーターを降りて真っ直ぐ自分の割り当てられた部屋に向かう。

 真っ白でガラス張りのオフィスを通り過ぎ、廊下に出たら突き当りの部屋が俺の部屋。俺は基本、銃を持って乗り込む仕事やから、オフィスもパソコンもあれへんねん。だから来たらまず荷物をここに置きに来る。

 鍵を開けて中に入ると、ぽいっとその辺に鞄を置いて靴箱の上のiPadを覗き込む。俺が会社から仕事の情報伝達用に渡されてるもんや。ホンマは持って帰るもんなんやけど、俺は基本ここにおきっぱにしてる。持って帰るとコン専でゆりにおもちゃにされてばれるかもしれへんからや。それに、ホンマに急用やったら支部長かdanteからメールが来るし。

 iPadを充電器から外して、俺はもこもこの白いスリッパに履き替える。支部ん中、クーラー利きすぎで寒いんやもん。末端冷え症の俺にはつらい。

 そのまま部屋を出て鍵をかけると、俺はそのまま支部長のおる執務室に向かう。

 この支部長、何が凄いって三十五歳で日本支部の支部長やってるって事や。ちょっと前まで俺とおんなじ工作員やったらしいけど、そんなふうにはまるで見えへん。それにしてはちょっとアホっぽいからかもしれへん。ゴキブリのおもちゃとかデスクの上にあるし、工作員の誕生日前になるとクラッカー持ってスタンバってるし。しかもえらいイケメンやし(ちょっと若作りしすぎやけど)、誕生日には必ずしょーもないおもちゃをくれるし(去年はスーパーボールやった)。でも結構、親切で優しい人やからめっちゃ頼りになったりする。

 俺はそんな支部長室のドアを叩いた。

「しぶちょー、ルノで〜す」

 すると何故かdanteがドアを開けてくれた。

「ルノおはよ〜」

 まだ子どもみたいな顔をしたかわいい顔のdanteが笑う。

 毎日支部にこもってるから真っ白けで不健康な顔色しとる。まるで雪男かヴァンパイアって感じ。パソコン用のメガネをかけっぱやから皆に目が悪いと思われてるけど、コイツ何気に俺より目ぇ良いからびっくりやで。しかもゲームばっかりしてるし、女っ気ゼロやし、暇さえあれば俺にドッキリ仕掛けようとするから年上とは思えへん。

 日本人の地毛にしてはちょっと明るめの茶色い髪の毛がさらさら揺れる。

「なにしてんのん?」

 俺はそう尋ねて中に入った。

 danteがニコニコしながらデスクの前の革張りの椅子に腰を下ろして、俺の腕を引っ張った。横に座れと促されて、俺はギシギシうるさい方に座る。

「ジェームズが来るん待ってんねん」

 やけにドヤ顔のdanteにちょっと引きつつ、俺はふーんと返事してiPadを覗き込む。画面には支部長から昨日の報告書はよかったと感想が届いとる。

 情報機密部で支部長の事をジェームズって呼ぶのはdanteだけや。danteは俺より二つ上なだけやけど、中学の時から支部で働いてるらしいから、支部長とは長い付き合いらしい。昔は支部長のバックアップをしてたから結構仲が良い。たまに兄弟みたいに見えたりもする。

 楽しそうに一週間分の仕事を終わらしたから、明日から暇やって語るdanteは幸せそうや。

 仮にも年上で先輩やけど、いつもこんな調子や。なんやかんや言うて、結局コン専の友達よりdanteと遊ぶ事のが多い。言うても二人でゲーセン行ったり、danteの家で闇鍋したり、ロシアンたこ焼きやったりってくらいやけど。

 支部長はすぐに来た。

 ピンク色の花柄マグカップ片手に入ってくると、にこにこしながら俺を見下ろす。

「お、今日は早かったな」

 俺は暇やったからと短く答えてマグカップをガン見する。

「えらいかわいいのん使ってんなぁ、支部長」

「家にこれしかなかったんだ」

 支部長はそう笑って、俺の横を突っ切りデスクまで行って、マグカップをひょいっと下ろすと、静かに座った。

 そんで、吹き出してまうくらい女の子みたいなかわいい悲鳴を上げた。

「キャー!!」

 嬉しそうにdanteがガッツポーズする。

「よっしゃー!」

 支部長はちょっと恥ずかしそうな顔をしながら何かを掴んでdanteに思い切りブン投げた。それは真っ直ぐdanteの頭に直撃して、そのまま床に落ちた。

 足元に転がったそれを確認しようと俯くと、ちょうど俺のナイキのスニーカーの上にミミズが乗っかっとった。それもかなり特大サイズのん。小指くらいの太さがある20センチくらいのミミズやで? 驚かん奴がおったらきっとそいつは人間やない。

 思わず飛び退いてスニーカーからそれを振り払うと、ようやくdanteが屈んでミミズを摘む。

「ちょお待ってぇな、danteそれ触れんの?」

 danteはにっこりと微笑んでそれを揺らした。

「かわいいやろ? ミミズのミミ子さんや」

「いや意味分からんし」

今にも投げそうやったから、俺はそそくさデスクの反対側に回って支部長の後ろに避難する。釣りする時でもあんなん触りとぅないのにホンマdanteなんなん?!

「ルノ、これゴムのおもちゃやで?」

danteはそう笑うと、それをゴキブリの横に丁寧に並べる。

「ジェームズ寂しいやろ? オレのミミ子さん貸したるわぁ」

「いらん。ミミ子さんは持って帰れ」

流石支部長。

めちゃ真顔でdanteにミミズを投げつけ、また言った。

「寂しくないからおもちゃはいらん」

「可哀想にミミ子さん。フラレてもぅて」

ミミズのおもちゃを撫でるdanteを無視して、支部長は俺に書類の入ったファイルをくれる。

「今週中に頼めるか? テストがあるなら別の奴に回すけど」

「大丈夫、やっとく」

俺はそう答えてから椅子のとこに戻って書類を広げる。

悲しい事に、バックアップがdanteになっとる。面倒な気がしてきた。

別にdanteが嫌な訳やないんよ。こんなんやけど、この支部で一番のクラッカーで経験もある。それにdanteと組んだ工作員の死亡率はめちゃくちゃ低い。せやからdanteはいっつも新人と組まされるらしい。あとは危なっかしい奴。俺はきっと危なっかしい方やろな。

キモいおもちゃで遊んでるし、俺より二つ上のくせに料理も出来ひんし、仕事してるとこほとんど見た事ないけど、でも他の誰より頼りになるんは確かや。

たまにヘッドセットから聞こえてくる支部長とか他のクラッカーの悲鳴にとてつもなく不安にさせられるけど。

胸のポケットにミミズを丁寧に直しながら、danteはにっこりと笑った。

「バックアップって誰なん?」

「danteや。頼むで、ちゃんと仕事してやぁ」

俺はため息混じりにそう言うて、ファイルから書類を出してdanteに渡す。

「任してぇや、ルノ」

「おもちゃやのぅて、パソコンの画面ちゃんと見とってや」

「失礼やなぁ、いつもちゃんと見てるで」

不満げなdanteの腕を引っ張って、俺は行くでとdanteを急かした。打ち合わせして明日には終わらす。嫌な仕事やからこそ、俺はこういう仕事をさっさと済ませるんや。

 やらんかったら日本にもフランスにもおられへんねから。
| スタートリガー社の工作員達 | 10:54 | comments(0) | trackbacks(0) |

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