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スタートリガー 2

JUGEMテーマ:小説/詩
 ゆりはいっつもしつこい。
 今日も早よ出勤してちゃっちゃと仕事を終わらしてdanteの家でプリンパーティーするつもりやったのに、たまにはカラオケ行こうと誘われた。俺が歌えるやつは日本のカラオケやとせいぜいフランス国歌と君が代とあと洋楽しかないいうのに、変な子やで。いつもやけど。
今日もスケボー片手に暇やから遊んでくれってしつこかった。しゃーなからバイトに遅刻するって言うて振り切った。
dante以外の日本人の友達はゆりだけやから、ホンマは一緒に遊びに行きたい。でもdanteからさっき準備が出来てるってLINEで来とったし行かんわけにもいかん。
ゆりには今度ゆっくりカラオケに行こうって言っといたけど怒ってるかもしれへん。
支部まで行こうとコン専を走って出たら、正面にゴッツイバイクが止まっとった。
 さらにぎょっとしたんは、そこにもたれて突っ立っとる奴に見覚えがあったからや。
 目ぇも悪くないのに赤いメガネして、片手でiPhoneを触りながらぼうっとしてるアホな顔。黒いパーカーに白っぽいジーパン、バイクに全く似合ってへん襟足長めの小栗ちゃんって感じの頭。しかもただでさえ目立つハーレーみたいなゴツイバイクも赤やで? 黒でも目ぇ引く言うのに、マジで焦ったわ。ぎょっとして目ん玉ひん剥いたで。ホンマに。
 そいつはやたらとふにゃふにゃした笑顔で俺を見て、大袈裟なくらい大きく手を振った。
「ルノルノ! こっちや」
 思わず固まって、無視するべきか真剣に悩んだわ。でもこのコン専周辺に今現在おるルノワールは絶対俺だけやん。誰が見たって分かるやん、俺やて。
 俺がカチンコチンにフリーズしとったら、振り切った筈のゆりが追い付いてきて、俺の肩を叩いた。
「ルノ、知り合いなん?」
 ゆりに言われて、俺はいや知らんとはっきり言い切った。ゆりはかなり疑った顔で俺を見つめてくる。
 いっそこのまま他人のフリしてすり抜けよかと思ってたんやけど、danteがデカい声で叫んだ。
「ちょぉ、無視せんとってぇや」
 しゃーなし、俺はdanteを見る。ついでに心の中でこのKY!!と怒鳴ったったけどな。
 ゆりは不思議そうな顔をしながらdanteをじぃっと眺める。
 danteはにこにこしながら俺とゆりに手を振る。
「バイト先の先輩やねん。俺、遅刻するから行くで、お疲れ!」
 だいぶと無理のある言い訳やった気はするけど、気にせぇへん事にして駆け出した。そのままdanteのとこまで行くと、メットよこせと手ぇ出した。物分りのいいようで悪いdanteは予備の派手な赤いメットを俺に渡すとええのん?と言ってゆりを見る。
 スケ子さん片手に、ゆりはかなり疑った顔をしながらお疲れとは言うてくれた。
 明日、絶対質問攻めにされるで。今から言い訳考えとかんな。
 俺は急いでヘルメットをかぶると、早よ出せとdanteを急かした。俺、バイクには乗らへんから、ヘルメットの留め具をどうやって締めるんか分からんくて嫌になる。急いでんのに、danteは呑気に紐を調節する。早よせぇと急かしたら、danteはにこっと微笑んで了解と笑う。たまにdanteって腹立つわぁ。
多分お兄ちゃん面したいんやろう。一応俺より年上やし、赤ん坊の頃から天涯孤独って噂やし、しゃーない。
 danteは優しく笑ってゆりに手ぇ振ると、バイクに跨って俺に言う。
「ちゃんと掴まっとってや。飛ばすで」
「分かっとるって、早よぅしてぇや」
 やっとエンジンが掛かって、バイクは走り出した。
 やたらと安全運転でイラッとしたけど、多分コン専生が多くて飛ばされへんかったんやと思う。この辺は道が狭いのにコン専生がよぅけ歩いとるからバイクでも車でもちんたら歩きと大して変わらん速度やし。
 後ろから走ってきたスケボーのゆりのが早くて、俺はため息をついた。
「ルノ、また明日なぁ」
「お疲れ〜」
 俺はちょっと遠回りしてくれとdanteに囁いて、ゆりに手を振った。
 danteはわざわざ御堂筋を突っ切って、結構な距離を遠回りしてくれる。
 ゆりはスケボーやし、ここまで速くはないと思うんやけど何しでかすか分かったもんやない。車の後ろにくっついてバックトゥザフューチャーかと言いたくなるような事する子や。前にもdanteの家からチャリでコン専まで行ったら、スケボー引っ張ってとか言うて後ろにくっついてきたからなぁ。
 たっぷり時間を掛けて支部につくと、danteは俺に言った。
「ごめんな、もっと目立たんとこにおったらよかったよなぁ」
「別にええよ。迎えに来てくれて助かったし」
 ヘルメットが脱げへんからもがいてると、danteが金具を外してくれた。メットから解放されてほっとする。
「ありがとう、dante」
 danteはいつもと同じ、優しい笑顔でええよええよと笑ってバイクから鍵を抜いた。
「でもなんで迎えに来たん?」
「暇やってん。久々にバイクにも乗りたかったしな」
danteと並んでボロい支部のドアを押したら、ちょうど書類を抱えた支部長がおった。どっか行くらしい。黒い鞄を持っとった。
「どこ行くん?」
「表に呼び出しだ、仕事しろよdante」
「了解でありまーす」
ふざけたdanteにちょっといやそうな顔しながら、支部長は出て行った。上司の割にはそうやって冗談も通じるところがやっぱり若いと思う。
ちなみに、表っていうんはちゃんと存在する部門の事で、存在しない事になってる情報機密部を裏って呼ぶんよ。表は基本的には梅田のど真ん中にある存在する支部の建物をいう事が多いんやけどね。
danteはエレベーターのドアを押さえて早よ乗りって呼んでくれる。お兄ちゃん面してるつもりやろけど、かなりマヌケに見えるわ。
俺は一応ありがとうと伝えて乗り込むと、重い鞄を背負い直した。今日は辞書みたいなjavaの教科書があるから、まるで機関銃担いでる気分になるわ。まあ、機関銃はもっと重いけど。
「すぐ行けるん?」
 俺はdanteに尋ねて、荷物を一旦床に下ろす。こんなんかつぎっぱやったら肩外れてまうわ。
「もちろんやで、朝から準備したんやからな」
 danteはそう答えてまたエレベーターのドアを押さえて俺が降りるんを待つ。
 ありがたく降りて歩き出したら、danteは黙って俺についてきた。
「いつも通り、単独やけど大丈夫?」
「この俺に出来ん訳ないやろ? 任しとけって」
 俺は出来るだけ明るくそう答えると、後ろで心配そうな顔をするdanteに笑って見せた。俺がちょっと怪我するたんびに泣きそうな顔をして医務室についてくるような奴やもん。肩を銃弾がかすっただけで、パニクって泣き出した事もある。せやから、実際無理でも俺は出来るてはっきり言うようにしてる。
「オレはオフィスでパソコン越しにバックアップするから、落ち着いてゆっくりやってな」
 danteはちょっと寂しそうにそう言うと、俺の部屋のドアをまた開けてくれた。このクソ重い鞄のおかげで両手が塞がってたからめちゃ助かった。
「武器庫で待ってるで、早よ来てや!」
 俺は分かったと返事して、さっさとクローゼットを開けた。
 仕事用のシャツとストレッチパンツを引きずり出して、それを着る。今日はちょっと寒いから、上にフリースの上着も着とく。全部黒なんは、返り血が目立たんようにや。正直ダサい。でも流石にGパンで仕事するのもつらいししゃーない。
 服がこんなんやとちょっと目立つから、アクセサリーは必需品。今日はドンキホーテで発見したちょっとゴツイ十字架のペンダントを選ぶ。あと武器開発課のおばちゃんがくれた発信機付きの腕時計。おしゃれで気に入ってんねん。
 鏡の前で黒のウィッグをかぶったら、もう誰も俺やて気づかんやろ。
 最後に黒のショートブーツを履いた。履きなれてるわけやないけど、どうせすぐ血でベトベトになって捨てるんやし気にせぇへん。履きなれる前にどうせゴミ箱行きやもん。
 ゆっくりと部屋を出てエレベーターに乗ると、武器庫のある地下のボタンを押す。
 行きたくないから、足が物凄く重く感じる。行きたくないから、エレベーターが物凄く遅く感じる。
 それでも黙って立ってるんはきっと、自分の居場所がほしいからなんやと思う。
 真面目に仕事をしてる限り、日本にはおれるから。日本におったら、少なくともdanteとゆりがいてるから。
 亀よりちんたら降りとるようにも感じたけど、やっとエレベーターのドアが開いた。
 武器開発課のおばちゃんや俺に自転車を作ってくれたおっちゃんらが、今日も忙しそうに武器を作ってる。小さいカメラとかペン型の盗聴器。武器を隠せるビジネスバッグとかそんなん。俺の自転車もなんやいっぱい装備がついてるらしいけど、使うた事ないからよう知らん。ちょっと重いだけの自転車でしかない。
 廊下を突っ切って一番奥の武器庫まで行くと、おばちゃんらが手を振る。
「お疲れ、おばちゃん」
 俺はそう手を振り返す。
「仕事か?気ぃつけてなぁ」
 親切なその声にありがとうと返して、武器庫の重いドアを押した。
 danteは武器を確認してた。
 俺と違って簡単な射撃訓練しか受けた事がないらしいけど、ゲームに出てくる銃に関してはよぅ知ってる。名前でどの銃かぐらいは分かるらしくて、昨日俺がリストアップした武器と銃弾は準備済みやった。
 俺は軽そうなのを選んで、一番近くにあったバッグパックに詰めていく。danteが出しといてくれてるコルトとその弾。そんなに大量にいらんのは分かってるから出してくれてるのを半分だけ詰める。
「そんなけで足りるん?」
 そう言うdanteに笑って大丈夫やから任しとけと返せば、了解て嬉しそうに笑ってくれる。俺はそれに少し癒された。毎回そうやけど、danteが笑ってると癒されるんよ。たまに腹立つけど、それが良いんやろなと思ってる。
 最後にリバーシブルのパーカーを一枚持ったら完璧。
 工作員のRenoirの完成や。
「帰ったらプリン食べようや」
 俺はdanteにそう言って笑いかけるとバッグパックを担ぐ。ちょっと重いけど、コン専の鞄に比べたらどうって事あれへん。あれは正直酸素ボンベ持ってるんと大して変わらんもん。筋トレでもあんなん背負わへんで。
「待ってるで、ヘッドセットつけていく?」
「つけてく」
 俺はdanteが出してきた小さ目のBluetoothヘッドセットを耳につけて、電源を入れる。iPadのSkypeをdanteに掛けて接続をチェックしてると、スマフォを耳に当てたdanteが言った。
「もしも〜し、聞ことる?」
「近距離過ぎて分からんし。離れてぇや」
「じゃあ、先オフィス戻るで」
 俺ははいはいと返して、辺りをもう一度確認してからiPadをバッグパックになおしとく。
「聞こえるぅ?」
 アホな声が聞こえて、俺は大丈夫と返事する。そのまま俺は話ながら武器庫を出て、真っ直ぐオフィスに向かう。ちょっと先を歩くdanteの背中が見えるけど、あえて何も言わず、俺はそのまま普通に話し続ける。
「今日の予定は?」
「最近多いんやけど、Heaven'sGate社の工作員がうちの機密情報を盗んだらしいんよ。どこからどうやってなんかは分かってないんやけど、とにかくその機密情報を海外に持ち出される前に破棄してほしいんやって」
 俺はふーんと返事して、靴ひもをもう一度結びなおしておく。いちいち解けやがってと若干イラッとするけど気にせんようにしておく。
「了解、ほな出発するわ」
俺はdanteにそう言うと、ぼうっとしてた仲間のおっちゃんに送ってと声をかけた。いつもは支部長が仕事を抜け出す口実に送ってくれたりするんやけど、今日はいてへんからしゃーない。バックアップがdanteやなかったら頼むんやけどなぁ。
danteが楽しそうに気をつけてなぁと繰り返し、デスクに座る音がした。俺は頼むでともっかい言うてから、おっちゃんと外に出た。
おっちゃんは外に停まってた普通のミニバンのドアを開けてちゃっちゃと乗り込む。俺は後ろを追いかけて中に滑り込み、バッグパックを下ろした。重たくて背負ってるのは辛い。
「ルノも大変やなぁ」
おっちゃんは優しくそう話しかけてくれた。俺は憂鬱な気分をごまかすようににっこりと笑って見せると、おっちゃんこそ今日は元気ないやんと返した。
たまに一緒の仕事もするけど、強くて頼りになる優しいおっちゃんや。俺はこの人めっちゃ好き。二回くらいしか見たことないんやけど、エライ冷たい目で睨んでくる変なジジイがおったっけ? あんな変なんとは大違いやで。
車は相変わらず人の多い梅田を抜けて、あんまり行かへん難波の方に向かう。自分がどこらへんに居てるんか、俺には全然分からんけどバックアップのdanteが案内してくれるから(多分)大丈夫。
俺は安心して外を眺める。
ぱっぱか抜けてく人混みの雑踏を見てるとなんか馬鹿馬鹿しぃなってくる。
だってそうやろ?
俺みたいに政府の機密情報のためやったら人を殺してもええて言われとる工作員が、普段はこんな中に混じってんねんで? 俺はやりたくもないこんな血みどろの腐った仕事を、映画やドラマはカッコよぉ映してちっちゃい子の夢になったりする。
昔は俺もそんな一人やった。
家族が蜂の巣になってんのん見てもて、他の誰かの家族におんなじ事させられるまでカッコええと思ってた。
そこまでして守った情報に、一体どんな価値ある言うん?
俺には分かれへんけど、どうせ大したもんちゃうんやろ。それが向こうに渡れば戦争になるかもしれんだけ。なるかどうか、誰にも分からんのに。
俺はゆりみたいに学校行ってるけど、やっぱりちゃうんよ。
ゆりみたいに普通の人生を送りたいけど、死ぬまで背中に気をつけやんなあかん。せっかく普通になれても、いつ俺が知ってしまった情報をネタに脅されるか分かったもんやない。
そんなん考えてたらやってられへんけど、でも俺はそう思う。
元々頭の悪い俺がちょっと勉強しただけでdanteみたいになれるとは思ってへんよ。
だってアイツ、根本的にちゃうもん。ちょちょっと映画見て英語ペラペラとか、中学もマトモに行ってへんのに俺の宿題いっつも手伝ってくれるとか。そもそもクラッキングを小学校の時に図書館の本だけで勉強したとか、凡人の俺には理解不能。
それでもや。せめて普通のプログラマになれたら、人を殺さんでええ仕事に就けたらて、そう思わずにはおれんのや。
早速カツラからこぼれてきた自分の長い金髪をネットに押し込み鏡を見てからため息をついた。
「おっちゃんは仕事嫌になったらどうするん?」
俺はおっちゃんに尋ねた。
「家に帰って嫁さんに癒してもらう」
おっちゃんはにっこりして言った。
「そんでな、この人のために手を汚そうて自分に言うんや。この人のために人を殺すんやって」
俺には全然分からんけど、おっちゃんはホンマに穏やかな顔しとった。俺がそんなふうに笑える日が来るか、微妙なとこやけど。
| スタートリガー社の工作員達 | 11:04 | comments(0) | trackbacks(0) |

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