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スタートリガー4

JUGEMテーマ:小説/詩

随分嬉しそうにバイクを降りてきたゆりは、騒ぎ疲れたんかちょっと眠そうやった。
danteも珍しくバイクを褒められたんが嬉しかったみたいで、ゆりの横をひょこひょこ歩きながら笑ってた。仲良くなってくれたみたいで俺もホッとしたわ。これでケンカでもされたら大惨事やで。きっと俺、泣いてたわ。
俺はゆりのスケ子さんを抱えて二人に尋ねた。
「どうやった?」
 二人は仲良く声を揃えて答えた。
「めっちゃおもろかったー!」
 俺はそれを聞いてますます嬉しくなった。
 隠し事せんでええのが一番嬉しいんやけど、それよりも大事な親友のゆりとdanteが仲良ぅしてくれる事やと思う。
 結局、俺は一人ぼっちやって心のどっかで思っとったんやろな。
 支部長は俺とdanteを見て言った。
「兄弟みたいだな」
「俺、こんな手のかかる兄貴いらんわ」
「ルノ酷いやん! オレのダウン返せ」
「嫌やし、寒いやん」
騒いでると、確かに思った。ホンマに兄弟みたいやって。
ゆりは正直、ホンマにここが支部かって疑っとったけど中に入ったら納得したみたいやった。
確かにこのボロさから言うて、普通は疑うよな。俺かて初めは疑ったもん。ってか、疑わん奴おるか? 中だけは異世界レベルできれいから、これを見るまで誰も納得せんもん。
俺らは真っ直ぐ支部長室に向かった
きょろきょろするもんやからちんたら歩くゆりの後ろを、俺はゆっくりと一緒に歩いた。
「後でdanteのオフィス見てもいい?」
俺にそう言うてくるゆりに、支部長が静かに答えた。
「danteのオフィスは重要書類しかないから却下。ルノの部屋で遊ぶといい」
「そうなん?」
「danteはこんなんだけど、スタートリガー社でもトップクラスのハッカーだからな」
支部長はそう言って、俺らのさらに後ろを歩いてたdanteを見た。
「なんか言うた?」
「danteは仕事しろ」
「もう終わらしたってば」
退屈そうに答えたdanteは、俺を見てにっこりと笑って見せる。
ホンマにコイツ、俺より二つも年上なんやろか?
ゆりはにこにこしながらdanteを見る。
「凄いやん! うちもそう言われてみたいわぁ」
何故か嬉しくなさそうなdanteはそうやろかと呟いて、寂しそうな顔をした。
俺にも理由は分からんかったけど、支部長がちょっとだけ悲しそうな顔をして、ドアを開ける。支部長しかdanteの考えてる事は分からんねやろなぁ。俺にも全然検討がつかんかったくらいやから。
支部長はゆりをぎしぎし言わん方の椅子に座らせると、danteに書類を探して来いと言った。ついでに自分はデスクのごっつい椅子に腰を下ろす。俺は手持無沙汰でゆりの横に座るしかなかった。
「これでええのん?」
danteはファイルから紙切れを一枚出してきて、支部長の前に置いた。
支部長はそれそれと笑って、近くにあったペンを掴んで、ひょいっとゆりの前に置いた。
「迷惑をかけたね」
「そんなんどうって事あれへんよ」
ゆりはそう答えると、ペンを持って書類の文字を確認する。こういうとこ、ちゃんとしてるよな。ゆりの事やから確認せぇへんのとちゃうかと思ったもん。
danteが暇そうに支部長の横に突っ立って、デスクのゴキブリを抓む。なんかしでかすんちゃうやろかと見とったら、支部長が黙って、それを取り上げた。不満そうやったけど、支部長に睨まれてすぐに手を引っ込める。
ゆりはしっかり確認してからサインして、念のためなと写メまで撮った。
「で、danteは何してんの?」
ゆりはそう言って、退屈そうなdanteに声をかけた。
danteは嬉しそうに微笑んで、デスクのゴキブリを拾い上げる。ついでにパソコンの上にそれを丁寧に置いた。
やっぱり、コイツはアホやで。うん。
「頼むから、ゴキブリは持って帰れ」
「嫌や」
ゆりはそんなやり取りを見て笑うと、仲ええなぁと呟いた。
「ルノ、部屋でプリンでも食べてこい。それからゆりちゃんを送るんだ」
「了解」
俺は短くそう答えると、ゆりの手を引っ張って立たせた。
「danteも来るやろ?」
俺が声を掛けたら、danteは満面の笑みでついてきた。
「プリンパーティーや!」
「じゃあプリン貰ってきてぇや。先、部屋行ってんで」
「分かった〜」
ホンマに嬉しそうに笑ったdanteは支部長にまた後でと手を振って、それから食堂の方に走って行った。
俺はゆりにこっちやって言うて、真っ直ぐ自分の部屋に案内する。
ホンマはこたつのあるdanteの部屋がいいんやけど、しゃーない。danteは食堂行ったし。
大体、danteの部屋は居心地が良すぎんねん。こたつもあるし、ゲーム機も山ほどある。しかも俺の部屋と違ってシャワー室とトイレまであるんや。待遇が違いすぎるって。danteがそこのトイレを使ってるとこ、見た事はないけど。
「ルノの部屋って、何?」
「仕事が夜やったら帰れへんから割り当てられてる部屋。俺、デスクもないから」
そう言うて、俺は鍵を開けてゆりを先に通す。
「どうぞ」
ちょっと嬉しそうに中に入ったゆりに、スケボーはこっちと玄関の壁に立てかけてもらう。そのまま、床に鞄を下ろすと、俺はdanteのダウンジャケットを脱ぐ。一番近くにあったセーターを羽織って暖房を入れる。
ゆりは不思議そうな顔をしながら俺のジャケットを脱いでこっちに渡す。
俺はそれをハンガーに掛けてから床に座った。フローリングは冷たいわ。
「意外と狭いんやね」
「danteの部屋は広いしこたつあんで」
「何それ、絶対ルノが寄生するやん」
「なんで分かんねん」
「まあ、ルノとは四年も友達やってるもんでねぇ」
ゆりはいつも通り笑うと、お気に入りのもふもふ座布団をこっちに投げる。流石、ゆり。分かってるぅ。
「ルノもこたつ置いたら?」
「今はdanteの部屋にパラサイトするからいらんかなぁ。泊まる時も、結局danteの部屋でたこ焼きパーティーやったりするし、ここはほとんど使ってへんもん」
ふーっと息を吐き出すと、danteが開けてとドアの向こうで叫ぶ。
一体何個のプリンをもらってきたんやろ。
俺はよこらしょと立ち上がり、ドアを開けた。
「ルノルノ、持って」
danteはそう言ってお盆を俺に押し付ける。
「danteの部屋行こうや、ここ寒い」
「ルノが帰らんくなるから嫌やし」
danteは冷たくそう言うと、スニーカーを脱いでゆりの横に座る。
こうなるとしゃーないよな。
俺は黙ってお盆を一人用のテーブルにのせる。
danteはポットとカップを三つにプリン十個も持って来とった。一人三つの計算でもおかしいやろ。そもそも、俺はこんなにいらんし。
「多くない?」
「オレ、四つ食べるから」
嬉しそうなdanteを見ながら、ゆりは笑った。
 アルコール抜きの宴会にしてはなかなか楽しかったで。だってゆりはプリン食べながら変な顔するし、danteはそれ見て紅茶吹きそうになっとるし。結局プリンを追加して、俺も三つ食ったし、danteは六つも食いよった。美味しいと嬉しそうな顔をしたゆりを見て、やけにホッとした。
晩御飯、もういらんなぁとぼんやり考え事をしとったら、突然警報が鳴った。
こんなん初めてで、俺は立ち上がってドアを開ける。
ゆりがdanteの横で不安そうな顔をした。
「どないしたん?」
俺はわからんと短く答えて、廊下を走っとった支部長を捕まえる。
「支部長、これ何?」
「多分、不審者だ。部屋にいて大人しくしてろ」
支部長はそう叫びながら走り去って、俺は首をかしげるしかなかった。
大人しくドアを閉めてなんやろなぁと言いつつ、俺が自分の座っとったもふもふ座布団の上に戻るとdanteが言った。
「あれ、ヤバいやつちゃう」
「なんで?」
「ヤバくなかったら使えへん警備員を呼ぶより、支部にいてる工作員のルノを駆り出すに決まってるやん」
マトモな意見を言ったdanteが続けた。
「なんか真面目にヤバいやつなんか、狙いがルノかゆりなんちゃうん?」
俺は隣りで少し不安そうな顔をするゆりの肩をそっと撫でた。
「大丈夫やで、俺、空手黒帯やから」
「でもうち、ルノが戦ってるとこ、見た事ないんやけど」
「そこは安心ですって言うてくれる?」
danteは笑いながら、俺のiPadを覗き込む。
ほとんど使ってないおかげで最近、完全にdanteの物になってる。学校にも持ってかへんし、そもそも仕事中も重なるとiPhoneがあるし置いて行くからや。たまに遊びに来たdanteのおもちゃにされてる。使ってないからええんやけど。
ゆりが俺に尋ねる。
「danteは何してんの? ホンマにハッカー?」
俺は頷いてdanteに尋ねる。
「なんか分かった?」
danteが顔も上げずに深刻な声で答えた。
「MirandaがJamesと撃ち合ってる」
不安そうに呟く。
「まさか、Mirandaが裏切ったん……」
danteがこんなに心配そうな顔をするんは、俺が前に弾かすったせいで怪我して戻った時くらいや。まだ若いとは思うけど、支部長もええ年やししんどいのは確かやもんな。昔は相当強かったって聞いてるけど、それでも心配なんやろうな。今にも部屋を飛び出しそうな勢いや。
俺は言うた。
「俺が行くから、danteはここにおって」
俺やったら、互角とまではいかんけど、十分支部長の援護は出来る。
銃の使い方とか、ピッキングの仕方とか、何かヤバい事があった時の対処法とかを教えてくれた人やし、強いのは確かや。大丈夫。
俺は変な自信を持って、部屋を出た。
ドアを閉める前にdanteに向かって言うた。
「鍵かけるんやで、ええな?」
そしてドアを閉めると、銃声のする方に向かって走った。
多分、あの音は支部長室の方からの筈や。
ゆりの事ですっかり忘れとったけど、Danteはあの件支部長に報告したんやろか? それどころやなかったから、まだちゃうやろか。
廊下はごった返しとった。
工作員は支部長室の前に固まって、銃を持ってるけど見とるだけ。使えん奴らやで、ホンマ。助けに乗り込めや。
俺は支部長室の前まで行って、数人の工作員から銃をひったくって中に乗り込んだ。
「支部長! 大丈夫か?!」
支部長は割れた窓ガラスを踏みながらこっちを見た。
見たことない支部長やった。手にはやたらとでっかい銃を持ってて、冷たく鋭い人殺しの目でこっち見んねん。danteと遊んでる時とは別人。
その支部長が、いつもとおんなじ優しい声で俺に言うた。
「ルノ、怪我はないか?」
「いやそれ俺のセリフや」
支部長は銃をデスクに置いてため息をついた。
「danteは大丈夫か?」
「部屋におるように言うたで」
「そうか、よかった」
そこでようやく支部長はいつもの支部長の顔に戻った。
「なんやったん? 大丈夫?」
支部長は俺の肩を叩くと歩き出した。
「裏切りだよ、よくある」
そして悲しそうに俺を見る。
「今日はゆりちゃんだっけ? あの子とdanteを見ててくれないか?」
「ええけど、なんやったん? 教えてぇや」
俺はそう支部長にいいながら、足早に部屋を出るその後ろを追いかけた。
「ミトニックとMirandaが裏切った」
「それってクラッカーの? danteの友達ちゃうん?」
「そうだ」
俺はあんまりよぅ知らんけど、danteから聞いたことある。
28歳くらいのdanteの次くらいに腕のいいクラッカーや。俺が支部で働く前にdanteが仲良かったって言うてたけど、年離れとったからあんまりやったらしい。
danteがなんや言うとったっけ? ケヴィン・ミトニックってアメリカのクラッカーの名前からつけたらしい。danteはコンドルって呼んどった。なんでか知らんけど。
「あいつが?」
支部長はうなづいた。
「だから見張っててほしい。danteは発信器嫌がるんだ」
「なにそれ?」
「とにかく頼む。私は事後処理があるから」
「よぅ分からんけど了解」
俺はそう返事して、突っ立ったままこっちを見てた工作員に持っとった銃を押し付けた。
「あ、ルノ」
めんどくさくて態度悪なるわ、ホンマ。
「なにぃや?」
danteよりちょい年上くらいの工作員が俺の肩を叩く。誰やっけ、こいつ。あんまり組まへんから分からんわ。
「勇気あるよな、あんなとこ入ってくとか」
「はあ? 仲間がヤバイのにそんな事言うてられへんやん」
「いやいや凄いって。ターミネーターやったらほっといても死なんやん。それに流れ弾食らいそうやったし」
俺は思わず聞き返した。
「ターミネーター?」
「あれ、ルノ知らんの? 支部長やん。昔からJamesやなくてターミネーターって影で呼ばれてんねんで」
「俺、支部長がホンマにそんな強かったと思えへんねんけど」
だって、あのゴキブリdanteの話なんか信用ならんやん。
大体danteはいっつも話が五倍くらい大袈裟やもん。この前、部屋に出た小指の爪くらいのクモを、支部長にはタランチュラや言うてたもん。流石に鉛玉食らって立ち上がるようなロボットとはちゃうやろ。
「マジやから!!」
その場に追った全員が口をそろえて言い出した。
「フライパンで戦車乗っ取ったんやろ?」
「それ、Vivianちゃうん?」
「じゃあ、鉄パイプ一本でHeaven'sGate社の工作員二十人を一瞬で叩きのめしたやつや」
支部長でも誰でもええけど、エライ大袈裟やなぁ。酷すぎひん?いくらなんでも、この世にフライパンで戦車乗っ取る奴はおらんと思うで。やろうとも思わんわ。
「それそれ。でも実際、danteとVivianしか見てへんかったんやろ?」
「danteはまだしも、Vivianは嘘つかへんで」
支部長って、ホンマ昔は何しとったんやろ?
俺は盛り上がってる輪からこっそり抜け出して、ゆっくり歩いてdanteの部屋に戻った。
「dante! 開けてぇや」
ドアを三回叩いて俺は言うた。
悪知恵だけはよぅ働くゆりと一緒に、なんやいらん事企んでんねやろなぁ。全然ドアが開かへん。物音一つせぇへんで。ドアの向こうで必死になって笑いを堪える二人のアホ面が目に浮かぶわ。
でもそんな事に引っかかったる程、このルノ様は優しぃないで。あの二人の度胆を抜くような事、しでかしたんねん。せやなぁ、超本気で中に乗り込んだろか。
俺はドアの横に背中をつけて臨戦態勢に入る。ついでにノリノリで、目に見えない空想のコルトに弾を詰めて、安全装置を外す。それを両手でしっかり持って、いつも通り一回深呼吸をする。そしてゆっくりとノブに手を掛けた。
「dante、俺やって! 開けんかい」
傍から見たら、相当マヌケやろなぁ。
超臨戦態勢の俺が、ドアの前でドラマのFBI捜査官並みに怒鳴ってるんやから。
ただ、おかしな事に三回呼びかけたのにdanteはドアを開けへん。
どうせ、嬉しそうな顔して、ゴキブリのおもちゃ持ってんねやろと思ってたんやけど、ちょっとおかしい。
「dante? ゆり?」
俺は二人にそう呼びかけて、返事がないのを確認するとノブを回した。
何故かノブは軽々回って、とっさに俺はおかしいと気づいた。
ゆりはともかく、あのDanteがちゃんと鍵を掛けへん訳がない。そりゃアイツ、閉所恐怖症かなんか知らんけど、密室に閉じ込められると大泣きするけど(一回俺がイタズラして、過呼吸起こしてたし)、今はゆりも一緒の筈や。大人しく鍵掛ける筈や。
俺はドアに体当たりすると、そのまま部屋に前転して乗り込んだ。武器こそないけど、俺はぐっと拳を握って周囲を見回す。
思った通り、そこには誰もおらんかった。
| スタートリガー社の工作員達 | 22:19 | comments(0) | trackbacks(0) |

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