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スタートリガー5

意外な事に置き手紙が、こたつの上に残っとった。
『Danteは貰って行きます。ごめんね、支部長』って、ピンクの名刺くらいのカードが一枚。しかも、裏には真っ赤なキスマーク。誰やお前は?! 不二子ちゃんか!! しかも支部長がルパン三世かい!! カードを見ながら、Danteを心配するより先にそんな事考えてもたで。
茫然と立ち尽くしとったら、急に背中から誰かに押さえつけられた。
何事かと思って、そっさに俺はその腕を掴んで逆にひねりあげた。
もうこれ、癖やで。いつ、殺されるや分からん生き方しとると、こういう事態に対処すんのがスーパーコンピュータ並みに早よなる。相手が誰かより先に、その腕をがっちり掴んどったもん。
で、目の前に現れて、喚いてる女の子に気づいて俺はぱっと手を放した。勢いで、その子は床に倒れこむ。
「あっ、ごめん」
長い髪の毛で細い腕、足だけは筋肉質でがっちりしとる。派手な格好やしすぐに分かった、ゆりや。
どうやら、押さえつけようとしたんやなくて、抱きついてきただけやったらしい。
「ごめんちゃうわ! 何してくれんねん」
ゆりは振り向き、俺を真っ直ぐ睨み付けた。
「癖やねん。ごめんやで」
俺はゆりに手を貸して立たせると、なるべく優しく尋ねた。
経験上、こういうタイプの女の子は怒らせるとめんどくさい。しつこいし、後が怖い。せやから、こういう時は紳士の振舞が大切や。何人の女の子泣かしてきたか分かったもんじゃない俺が言うんや。間違いない。
「まあええわ、それよりDanteが連れてかれてもてん」
「よぅゆり無事やったなぁ」
「ドアが開いたから、とっさにトイレに隠れたんよ。Danteは鍵の掛かるとこ嫌やとか訳の分からん事言うてて」
「ああ、納得」
俺は頷くと、ゆりを上から下まで確認する。
「ケガはない?」
「うちは大丈夫」
「じゃあいいや」
俺はゆりの手を引いて外に出た。
まずは支部長を探して、一緒にゆりから事情を聞く。今はそれくらいしか出来ひん。
権限もないし、Danteとじゃないと組ましてもらえへんようなへちょい工作員やもん。やっぱり、いじめっ子ボコッたあかんで、女の子いじめとる卑怯者でもや。真面目に空手習っとくべきやったもん。こういう時のために。
「どこ行くん? Dante放っとくん?」
ゆりが不安そうに俺を見上げる。
俺は立ち止まって答えた。
「ちゃうよ、支部長を探すんや。Danteの事、どないしたらええか聞きに」
「今追っかけたら追いつけるって!」
「でも、相手一人とちゃうやろ? 俺一人じゃ無理や」
俺ははっきりとそう言って、真っ直ぐ支部長室に向かってまた歩き出す。ゆりがちんたら後ろをついてくるけど、その表情は完全に俺の事、疑っとるな。
まあ、しゃぁないよな。突然俺が工作員とか聞かされて、今日知り合ったばっかりのDanteがこれまた突然連れ去られたら疑いたくもなるわ。
「なぁ、ルノ」
ゆりが俺の腕を軽く引いて言う。
「何?」
「ホンマにルノ強いん?」
「失礼やな。黒帯なんはホンマやで」
俺はそう答えて、開きっぱなしの支部長室のドアの横に立って、ゆりを先に通す。
ここは紳士を気取っといた方が得策やって頭の中で計算する。ゆりに今更キレられても困るやん。普段の俺は騎士道精神のカケラもない奴やけどな。確かに女の子を酒で酔わせてたらしこむ時にはエセ紳士になるで。その方が簡単やし、他のチャラい連中を蹴落とすのも楽や。女の子かて、結局は人間や。口が上手くて紳士的な男は、どんなバーやクラブでもモテるもんや。十四の時にクラブの用心棒にベロンベロンの女の子を提供して、入れてもらった俺が言うんや。間違いない。
でも、ゆりには逆効果やったらしい。
めっちゃ真顔で
「ルノ、どないしたん? キモイで」
とか言われてもたもん。
先言うとっけど、俺は今まで女の子に袖にされた事だけはない。ホンマ、マジで。ナルシストちゃうで。そりゃ、自分の容姿が軽く見積もって上の下くらいなんは自負しとる。俺がとんでもない遊び人って知ってる真面目ちゃんに関しては別やけど、俺のナンパの成功率は95%ってとこや。その気になればラブラブなカップルから女の子寝取るくらい屁でもない。
で、こういう容姿やと、上手く言うだけで大抵の希望は通るもんや。
せやから結構本気で紳士気取ったつもりやったのに、キモイとか言われてかなりショックやった。
「酷っ」
俺は思わず呟いた。
そんなやり取りに気づいたらしい、支部長がこっちに目を向けてくる。
「どうした、ルノ。Danteは?」
「その事で話があんねん」
支部長はガラスまみれのソファーに座って頭を抱えた。
「誰に連れ去られたんだ?」
俺は黙ってあのカードを支部長に差し出す。
だってDanteを連れ去った相手が誰か分かれへんねんもん。ゆりが見てたかもはっきりせぇへんやん。トイレに逃げ込んだんやったら、声も聞いてへんかもしれん。Danteごときが暴れたところでこの手のプロには痛くも痒くもないやろからな。
支部長はカードを裏っ返してデカい溜息をついた。
「なんだこれ、ふざけてるだろ」
俺は頷くしかなかった。
「俺も思った。誰やと思う?」
「きっとMirandaだ。工作員で唯一行方不明なんだ」
支部長はそう呟いて、俺とゆりを見た。
ゆりは不思議そうな顔をして、俺と支部長を見る。
「ゆりはトイレに逃げ込んだらしいんやけど、Danteは閉所恐怖症やろ? それで捕まったみたいやねん」
「ああ、なるほどな」
あっさり納得した支部長は、ゆりに尋ねた。
「声とか聞こえたか?」
「ううん、全く。Danteが喚いてたんは聞こえたんやけど、なんか複数いたみたいやったし隠れてたんや」
ゆりは静かにそう答えた。
俺も支部長も溜息をつくしかなかった。
「アイツ、何回こういう目に遭ったら隠れるっていう選択肢を覚えるんだ?」
「無理ちゃう? いっそ精神科にでも連れてったら?」
「それも無理だ。Danteは病院も嫌いだしな」
支部長は頭を抱えたまま、ちらっとこっちを見た。
「仕方ない。ルノ、一緒に来い」
「どこ行くん?」
「このカード、心当たりがあるんだ」
「分かった」
俺は大人しく支部長に頷いて答えると、ゆりを見た。
「一人にして悪いけど、俺の部屋で待っててくれる?」
「それはええけど、大丈夫なん?」
支部長は何故か余裕の表情で頷いた。
「大丈夫だよ、心配しないで遊んでてくれ」
俺はゆりにPSPが俺の部屋のテーブルの上にある事を伝えて、カードキーを外した。皆は首から吊るしてるけど、お気に入りのペンダントと絡まるから俺はズボンのポケットに引っ掛けてる。ちょうど支部長がカードキー外そうとしてわたわたしてるけど、俺は一瞬や。
「これ使って。くれぐれも悪用はせんとってや。すぐDanteが気づくで」
「あのDanteがそこまで見てるん?」
「せやで」
俺はそう答えて、なるべくにっこりと笑って見せた。
ホンマは不安やったよ。だって、嘘かホンマか知らんけどターミネーターと二人でどこぞまでDante探しに行くんやもん。バックアップにDanteがおれへんのに大丈夫なんやろか。多分やけど、Danteがおらんかったら俺、とっくの昔に蜂の巣にされとるところやで?
でも、今そんなん顔に出てもたら、ゆりが不安になるやん。親友やもん。あんまり心配させたくない。
支部長はそんな俺とは対照的に、戸棚の裏からごっついマシンガンを引きずり出して、ちゃちゃっと準備を始めた。手際の良すぎる支部長に、俺はぎょっとした。確かにずっと鍵はついてるしデカいしなんやコレとは思ってたけど、まさか銃火器入ってるとは思わへんやろ? しかも支部長はしれっとした顔で、他のどの工作員より銃の組み立て早いし。
「ルノ、早く用意しろ。そこの使っていいから」
支部長はそう言って、マシンガンの入ってた戸棚に向かって顎をしゃくった。
興味津々のゆりから離れて、俺は戸棚の中を覗き込む。
いくらなんでも、ガチでターミネータなマシンガンばっかとちゃうやろ。一丁くらい、使い勝手のいい普通のベレッタとかある筈やん。じゃなきゃ、こんな銃ばっかりどんなタイミングで使うねん。
でもそんな予想もむなしく、戸棚の中で一番小さいのがまさかのコルトパイソン。いわゆるマグナムって奴や。熊退治にでも行くんか、支部長。
「バックアップとかどうするん?」
俺は仕方なく、一番使いやすそうなサブマシンを引っ張り出す。
「いらないだろ?」
真顔の支部長は俺を見る。
「そんなんでいいのか? もっとデカいの持って行こう」
「俺、普通の拳銃しか触った事ないんやけど」
支部長は笑って頷く。
「知ってる」
そして支部長はよいしょと呟き、マシンガンを担ぐとゆりを見た。
ゆりはドン引きって感じの酷い顔で、黙って俺と支部長を見とった。
それに気づいた支部長は、いつもの数倍優しい顔で笑って見せた。
「大丈夫、心配しなくても、ルノは強いし死なせないよ」
Danteが支部長の事好きなん、分かる気がする。こういう時、強いかどうかは置いといて、確かに頼れるもん。安心感はないけど。
「ゆり、大丈夫?」
黙ったまんまのゆりに、俺は尋ねた。
ホンマは肩叩いて、にっこり笑ったったらええんやろうけど、ゆりはめっちゃ不安そうな顔で頷くだけ。これ絶対、俺の事信用してへんやん。
「Danteはおれへんけど、俺やったら大丈夫やで」
一応、俺はそう声を掛けた。
「そのバックアップって何すんの?」
ゆりは唐突に言うた。
「監視カメラとかにクラックして、援護するんよ。電子ロック外すとか」
俺はそう答えて、ゆりをのぞき込む。
なんか嫌な予感がする。ゆり、なんかいらん事を考えとんちゃうか。
「それ、うちやる。電子ロックは外されへんけど、監視カメラやったらなんとか出来るかもしれへん」
支部長が嬉しそうな顔をする。
それと同時に、俺は溜息をついた。
はっきり言うとく。
俺はこんな汚れ仕事やってるとこ、ゆりに見られとぅない。Danteに見られてんのですら、ホンマは嫌やねん。だってやで? 液晶越しかもしれんけど、俺は確かに人を殺して歩くんや。返り血浴びて、誰かの流した血を踏んで……。どんな理由やろうと、人殺してる事にかわりないんや。イカレとる訳やないところがジェイソンよりタチ悪いと思うで。
Danteは見慣れとるかもしれんし、小さい頃から支部長みたいな凄腕(って噂の)工作員と仕事してるから何とも思わんかもしれんけど、それでも、俺が人殺しなん知ってほしくなかったもん。いい子(年上やけど)なんは確かやし。
「ゆり、こういう事には関わらん方が絶対ええって」
支部長はそうだなと頷きながらも言った。
「でも今、信用できるクラッカーもいないし、仲のいい者で組んだ方が上手くいく」
「支部長、俺は反対やで」
「今は揉めてる暇もないし、仕方ないだろ?」
「他のクラッカー呼んだらええやん」
「ルノやDanteみたいに助けにも来れない連中を、か?」
支部長の言うてる事はもっともや。
でも、俺はあくまでコン専のルノ意外の顔、ゆりに見てほしくなかった。
フランスで散々遊んできた事も言うてないし(多分、Danteも知らんのちゃうやろか)、出来ればこのまま親友でおりたいんよ。
強い目でゆりは俺に言うた。
「このままやったら厳しいんやろ? うちも手伝う」
こうなったらゆりは止められへん。
Danteの事も放っとかれへんし、しゃーない。めっちゃ嫌やけど。
「ルノ、Danteのデスクに連れて行ってあげるんだ。準備が出来たら戻ってきてくれ」
俺はデカい溜息をついて頷いた。
「了解」
 
JUGEMテーマ:小説/詩
| スタートリガー社の工作員達 | 22:51 | comments(0) | trackbacks(0) |

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