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スタートリガー6

JUGEMテーマ:小説/詩

ゆりはやたらとテンション高かった。
ゆりと反比例してテンションの低い俺は、なんやめちゃくちゃ重く感じる足を引きずってDanteのデスクに向かっていた。
Danteのデスクは情機部のオフィスの隅っこにあって、白いパーティションで区切られてる。パソコンがごついし液晶ディスプレーが三つもある上、おもちゃだらけやからエライ狭く見えるけど、オフィスの中では広い方らしい。
一際目立つ、ラジコントイレがでーんと乗っかったパソコンですぐ分かる。動くんよ、トイレが。ちなみに和式やで。支部長がDanteの誕生日にあげたらしいんやけど、いっつもトイレットペーパーを丁寧に敷いて、かりんとうとかのせよるんよ。
それを暇つぶしにオフィスで走らせてるから、最近情機部ではDanteの事を影でトイレとか便器とか呼んでるらしい。本人には言わへんけど。まあ、知ったところでDanteやったら喜びそうやけど。
「あれやで、トイレあるとこ」
ゆりがドン引きでそのデスクを眺めてた。
流石のゆりも引いてるやん。
「なあ、ルノ。本気で言うてる?」
「本気やで。あれ、Danteの宝物らしいから壊したら泣くで。気ぃつけや」
今日はまだマシな方やで。
酷い時はゴキとかミミズのおもちゃでごちゃごちゃやもん。今日はちゃんと足元の赤いバケツの中に使い込まれたルービックキューブと一緒におさまってる。なんやこっちを睨んでるエイリアンのフィギュアを避けたら十分パソコン使えるわ。液晶の横でカッコつけてる赤いコートのあんちゃんのフィギュアが似合わな過ぎてシュールやし、ホンマこのデスクは目立つで。
ゆりがちょっとびっくりした様子で言うた。
「ルノ、Danteってこういう趣味やったん?」
「せや。そのエイリアン女の子らしいし、仲良ぅしたってな♪」
クラッカー連中がパーティションの影からゆりを眺めてるけど、ゆりはトイレやら害虫やらに目を奪われて気ぃ付いてへん。なんか不安になってきた。
ゆりの事やから、へにゃへにゃしたクラッカー連中くらい放っといても大丈夫やろけど、それでも心配やん。仮にも女の子やし。
「なんか面倒な事になりそうやったら、遠慮なく俺の事彼氏とかテキトーに言ぅてくれてええで」
「大丈夫やって、あれくらい自分でどうにか出来る」
ゆりはそう笑うと、俺を見上げる。
「ルノこそ、気ぃつけや」
俺はほっとして頷いた。
「ターミネーターが一緒やから大丈夫やで」
「なんやそれ?」
ゆりは不思議そうやったけど、パソコンの電源を入れてすぐに嬉しそうな奇声を上げた。多分、パソコンが凄いんやろな。Danteのパソコンがめちゃくちゃ高スペックって言うのは聞いた事あるで。でも、Danteがその超高スペックパソコンの上にゴキブリ並べてるところくらいしか見た事ないんよ。そんなに凄いんやろか。パッと見分かれへんけど。
「じゃあ、このタブレット貸すからSkype繋いでてや。それで連絡取るで」
「いえっさー!」
なんかノリノリのゆりの返事に溜息をついて、俺はiPadをゆりに渡して踵を返した。
ホンマはめっちゃ嫌やった。
銃を撃って、返り血浴びて、その人の血を踏んで歩く姿を見られるんやで?
そりゃ映画で見る分にはカッコいいと思うで。俺も昔、スパイものの海外ドラマにハマっとったもん。憧れたわ。でも、シャンゼリゼの近所にあった自分ちにマリファナの匂いぷんぷんさせながら帰って、家族全員の死体を見っけてから気が変わった。そんなええもんとちゃうで、ホンマに。
そんなロクでもない姿を見られるくらいやったら、支部の中を素っ裸で歩けって言われる方がまだマシや。小説とかではこういうんやっけ? 一糸まとわぬうんたらかんたらってやつ。まあ俺が素っ裸さらしたところで、喜ぶ女の子なんて、この支部にはおらん気ぃしかせぇへんけど。食堂のおばちゃんがバスタオル持って追っかけてくるくらいなもんやろ。
それに、裸にはそこそこ自信もある。
Danteは絶対ついてけぇへんし、来たとしてもランニングマシンの上にミミズ並べて遊んどるけど、俺は真面目に支部のジムに通って体鍛えてるもん。腹筋にはそこそこ自信ある。色白なところがちょっともったいないけど、これでちゃんと日光浴びてたらめちゃモテると思うんよ。マジで。
Danteに至ってはまるで興味なしやけど。
とにかく、こんなん嫌やったんよ。
ずっとステーキとかバーベキューとか焼肉とか大好きやったのに、今じゃ焼けた肉でも見るのがつらい時があるくらい。テレビで銃声が聞こえたせいで、トイレに頭を突っ込んでなあかんのもしょっちゅう。
そんな俺の姿、見てほしくなかった。
ホンマはDanteにかて見てほしくないけど、アイツはお兄ちゃん面していっつも水とか持ってきてくれる。情けなくて、自分が怖くて、鍵掛けて泣き喚けたらどんなに楽になるやろと思うくらい。でも、そういう時に限って、Danteは俺の横に座って背中をさすってるから、堪えるしかないんよ。
今は本気で逃げたかった。
ずっと逃げてきたのは分かってるけど、そんなん比じゃないくらい。
でも今、もし俺が逃げたら親友がどうなるんか分かったもんやない。
俺はゆっくりと廊下を歩いた。
「ルノ、大丈夫か?」
支部長が、優しい声でそう言った。
「あんまり」
俺は短くそう答えると、支部長に尋ねた。
「支部長は、こういう仕事嫌になる事はなかったん?」
「あったよ」
支部長はBlueToothのヘッドセットを耳に引っ掛けながら言った。
「そういう時、どうしてた?」
「帰ったらどうするのか考えるんだ。Danteと遊んでやろうとか、映画見ようとか」
支部長はにっこりと笑った。
「帰ったらゆりちゃんとDanteと三人で、パーティーしたらいいだろ?」
「パーティー?」
「そうだ、そのためにはDanteを連れて無事に帰って来ないといけないだろ?」
「まあ、そうやけど」
「じゃあ頑張らないとな」
支部長はそうカッコよく笑って見せると、俺の背中を叩いて歩き出した。
「ところで、そのスカイなんとかってやつはどうしたらいいんだ? 使った事がないんだ」
ちょっと時代遅れな支部長に吹き出して、俺は俺の以上に使ってなさそうなサラピンのiPadを受け取ってセットした。ちゃっかりDanteが俺と支部長のだけは設定してたみたいですぐに使えてホッとしたわ。俺、洗濯機以外の機械には嫌われとるみたいやから。何故か俺の使うパソコンはいつもエラーとか出るもん。いっつもDanteに笑われるけど。
ゆりに渡した俺のiPadに自分のiPhoneでグループ会議を繋いでゆりに声を掛けてから支部長の分も繋いだら、準備完了。
不思議そうにiPadをひっくり返してる支部長に、笑ってたらゆりが言うた。
「ルノ、これってあのおっちゃんも繋がってんの?」
「繋いだで。ジェームズ・ボンドって支部長な」
「マジで言うてる? ジェームズってそういう事?」
笑い出すゆりに、支部長がちょっと恥ずかしそうに言った。
「いいだろ。昔、その映画が好きだったんだから」
「いいと思う。凄いいいと思う」
笑ってるゆりに、俺もつられてちょっと笑った。
なんか大丈夫な気がしてきた。
支部長、やっぱりええ人やで。絶対。
 
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