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スタートリガー7

JUGEMテーマ:小説/詩

ゆりは絶対映画の見過ぎやと思う。
だってさっきも二時の方向に銃を持った奴がおるとマイクに向かって叫んでたもん。確かにおったけど、俺と支部長から見て十時の方向やったし。せめてDanteみたいにソファーの向こうとか言うてくれへんかな。
俺は掃除用具入れの陰で銃に弾を詰めてる。準備は大事やで。身を守るんは結局銃やもん。銃口を向けられたら、空手が黒帯でも関係ないから。
支部長は横でメントス食っとる。そう、のんきにコーラ味のメントス食ってんねん。ホンマに焦ったで。緊張感なさすぎやろ。
支部長がターミネーターなんは認めるで。
ホンマに強かったもん。ここに乗り込んで来た時も、余裕で全員をフルボッコにしとったから。それに今のところ、殴り倒すばっかりで銃はほとんど撃ってへん。これで、現役引退してしばらくって相当やと思う。
マジで、現役で働かされてる俺よりよっぽど強い。
でも、敵の本拠地(と思われるビル)に乗り込んだにしては、のんきすぎひん? メントスやでメントス! 水ならまだ分かるけど、おかしいって。
あっけにとられて眺めてたら、支部長はにっこりして、食うか?とか言い出した。
ほしくて見てるんちゃうわ。今それどころちゃうから。いらんっちゅうねん! 言うたろかと思ったけど、ぐっと堪えた。俺、めっちゃ偉いと思う。ここは俺が大人になるしかあれへんと思ってんもん。
支部長はそうかとにっこり笑うと、また一粒口に入れる。
「ジェームズ・ボンド何してんの?」
ここには監視カメラがないから声しか分からんゆりが、不思議そうに支部長に言うた。
「メントス食べてる」
もごもご言うてる支部長に代わって俺が答えた。
「ええなぁ。ルノは食べへんの?」
「今そんな気分やないんや」
支部長と同じく超のんきなゆりに溜息をついて、俺はベレッタの最終確認を終えた。行こうと顔を上げたら、支部長は頷いて立ち上がった。
ホンマにこの人、凄腕工作員なんやろか。
工作員らしくこのビルの裏口を探してる俺に、正面から行けばいいじゃないかとか言い出すし、隠れもせんと廊下を突っ切るから、掃除用具入れの陰に隠れる羽目になるんよ。
それにしても意外やった。
支部長はあのピンクのカードを見ただけでHeaven'sGate社やって言い出したんやもん。字に心当たりでもあったんやろか。ただの勘にしては支部長、めっちゃ真顔やったし。
そんな訳で、俺は今日の昼に乗り込んだビルにまた乗り込んでる。
「お嬢さん、紅茶はいかが?」
ゆりがなんか楽しそうにエイリアンと会話しとるけど、うんざりしてきた。俺、あの映画見たけど、シガニー・ウィーバーが美人やった事くらいしか覚えてへんもん。そもそも、ゆりは映画を知ってるんやろか。そもそも、エイリアンは紅茶飲まへんと思うし。飲むんやったら人間の血ってとこちゃう。
「ゆりちゃんは何と喋ってるんだ?」
めっちゃ不思議そうな支部長に、俺は親切に教えてあげた。
「Danteのデスクの上におるエイリアンのエイ子さん」
「ああ、Vivianがやったあれか」
「誰それ?」
「妻だよ」
支部長は爽やかに笑うと、俺に言った。
「帰ってからゆっくりDanteに聞いてみろ。Danteがよく知ってるから」
「何でなん?」
「Vivianも元工作員なんだよ。いつも私と組んでたんだ」
ふーんとあんまり聞いてへんかったけど、支部長は嬉しそうやった。
なんでも、晩御飯はうどんらしい。具材ぶち込むだけやんとか思ったけど、もしかしたらちゃんとだし取ってんのかもしれんから黙ってた。
俺もよぅ姉ちゃんらに飯作ってたから分かる。基本、野菜炒めやけど、面倒やん。それに時間かかるし。ちなみに俺の得意料理は味噌鍋やで。つみれと味付けは結構評判ええんよ。
ごめんな、フランス料理やなくてがっかりやろ? Danteにも言われたで。
俺は真面目に支部長に尋ねた。
「仲ええん?」
「基本的には良い方だけど、キレたら殺されるからな。怖いぞ〜」
笑って見せる支部長の様子からして、多分そんなになんやろけど、後でDanteに聞かんなアカン事が出来たで。これで一晩中Danteに話が聞けるやん。
俺はこっそり笑いながら、支部長と外に出た。
ここのビル自体はDanteが事前に調べ取ったからデータも残ってたし、乗り込んでくるのは簡単やった。流石に前と同じ道はヤバいと思って意図的に避けてるけど、そんなに困る事もなく最上階まで来れた。
この会社がなんやよぅ分からん事してるんは知ってたで。一応大企業やし、表向きには社会奉仕活動がどうしたとか言うてるけど、裏は真っ黒。ロシアとかと繋がってんちゃうかと言われてる会社や。この会社関連の仕事は確かに多いもんな。
問題はDanteがどこにおるか分かれへん事や。
この会社ってデカいし、よぅ分からんセキュリティルームとかも山ほどある。ゆりはクラッキングは出来ひんて言うし、そんなヤバい所に堂々と乗り込める筈がない。
今は静かにこそこそしながら情報収集しかない。
ときどき見つける銃を持った奴を上手いこと脅して、口を割る奴を見つけるしかない。こっちがあんまり撃たへんからか、揃いも揃って、誰も口を割りよらへんねん。信じられへんわ、ターミネーターに脅されてんのに。確かに、殺そうとする支部長を何回か止めたけど。
俺はそんなちょっと怖い支部長の後ろを歩いた。
一向に手がかりも見つからへん。
支部長が呟く。
「アイツ、無事だろうか」
「大丈夫やって。ゴキブリみたいに生命力あるって」
俺はあんまり自信もないのにそう言った。
少なくとも、今はそう信じたかった。

 
| スタートリガー社の工作員達 | 21:08 | comments(0) | trackbacks(0) |

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