<< ラタトゥイユ | main | オレはすんげぇ幸せだ☆ >>

スタートリガー8

俺はドアを蹴破った。
やっとゲロった男の言葉を信用して、俺は支部長と一番上の階の社長室に乗り込んだ。なんでもそのオタク系のおっさんの話によると最近、よぅ分からんけど俺くらいの年の子達が出入りしてるらしい。さっき結束バンドで縛られた男の子がそこに引きずり込まれたらしい。まあ、十中八九Danteの事や。俺より相当年下に見えたみたいやけど。
支部長が勢いよく中に乗り込んでいく。
まさにターミネーターって感じに両手に銃を抱えて乱射。どう考えても危険人物やで。Danteに当たったらどないしよとか考えへんねやろか。やっぱり、こういうところがターミネータかもしれへんで。
俺は支部長を援護しようと銃を持って静かに中に入ったけど、目に入ってきたのは支部長に抱きついて泣いてるDanteだけ。あとはほとんどぶっ倒れた連中だけ。死んではいてへんみたいやけど。
俺は辺りを確認しながら二人に近づいて行った。
「Dante、ケガないか?」
Danteはすでに泣きじゃくってて、支部長が代わりに大丈夫そうだよと答えただけ。よっぽど怖い思いでもしたんやろかと、俺はしばらくそのまま警戒する。
どうやら社長室には結構昔からMirandaが出入りしてたらしい。立派なデスクの上にはMirandaの社員証が置いてあった。それもうちの会社のんやない。Heaven'sGate社って書いたあるで。これって二重スパイやったって事やろか。
俺は黙ってその社員証をズボンのポケットに入れると、泣き止みそうもないDanteを見る。
「支部長、どうすんの?」
「なんとかなるって」
そんな軽いノリの支部長に、俺は溜息をつくしかなかった。
ゆりが言う。
「なんか、階段上ってきたで。援軍ちゃう?」
「援軍って、そんなにおるんか?」
「いや、五人くらい」
「それ、応援って言うんやで」
俺はゆりに呆れながらそう言うと、黙って出迎える準備をする。ソファーを引きずってきてデスクと一緒に並べると、転がってる人らの手から銃をもぎ取りデスクの裏に向かって放り投げる。
「支部長、早よしてや」
俺はそういうと最後に辺りを見回して、きっちり確認してからデスクの裏に回ってしゃがんだ。床に散らばる銃を見て、俺はDanteに言う。
「すぐ撃てる状態にしといてや」
「ルノ、オレ銃なんか触った事ない」
Danteがそう、困った顔をする。
俺は仕方なく、支部長と一緒に銃の準備を開始する。座り込んで不安そうに支部長にくっついてるDanteがつらそうにしゃくりを上げた。
よぅ見たら、所々に擦り傷があるみたいや。でも、そんなくらいでDanteがこんなに泣くんやろか? 確かにDanteはよく映画とかゲームとかしてて感動して泣いてるけど、自分の事で泣いてるのは見た事がない。誰にどんな言葉を浴びせられてもケロッとしてるくらいや。
俺は帰ったら聞きださんなアカンなと心の隅っこで考えた。
乗り込んで来たのはどうやらMirandaらしい。
ちょっと高めの声ですぐに分かった。
「なにこれ、皆ヘボすぎ」
俺、あの女だけは好きになれへんわ。ジャメルに口説けって頼まれても絶対無理。多分、スピリタスの一気飲みしてて意識なくてもゲロ吐くレベル。俺にかて、趣味っちゅうもんがあるんやから。
きっと俺と同意見のDanteが泣きながら支部長の白いシャツに顔を押し付けて肩を震わせとった。
俺はDanteの代わりにMirandaに言うた。
「お前の仲間、カスやのぅ」
「ルノ、来ると思ってたで」
Mirandaはそう笑うと、嬉しそうに続けた。
「うち、いっぺんでええからルノと本気でやりあってみたかったんよ」
「そんなもん、俺が負けるに決まっとるやろ。なに言うとんねん」
俺はそう言い返して、デスクの陰から少し頭を出して様子をうかがう。
Mirandaはヤケに大人っぽい格好をしてた。赤いハイヒールに黒のワンピース。髪の毛は珍しく垂らしてて、がっつりメイクしとる。この女、高校生ちゃうんか。こんなカッコで外を歩いとったら親が泣くで。俺の可愛い妹が(死んでもたけど)こんなカッコしてたら、きっと俺ショックで死んでまうわ。
「いけいけルノ! ぶっ倒せ!」
ゆりがちゃかす。アカンってコレ。気ぃ抜けるわ。
支部長が俺に声を出さずに口だけ動かして合図する。
でも俺、そこまで日本語流暢って訳やないんよ。そりゃ日常会話に困った事はないけど、本が読めるほどやない。そもそも漢字が読まれへん時が多いし、精々子ども向けのかいけつゾロリが限界や。そんな奴に口唇の動きだけで会話せぇなんて無茶振りにも程がある。コン専の教科書とか、三分の一も理解出来ひんからな。
理解出来ひん俺に、支部長は溜息をついた。
すまんなぁ、支部長。日本語が分からんくって。俺、フランス語やったら分かったんやけど。
俺、結局ほとんどフランスで生活してたし、バイリンガルって言うてもホンマに話せるだけって感じや。免許証なんて単語、使った事なんか一回もなかったし。
支部長は背中からDanteを引っぺがし、俺のところまでズリズリ移動してくると囁いた。
「おとりになるからDanteを連れて逃げろ」
そしたら泣いてたDanteが支部長に抱きついて泣き出した。Weepって感じじちゃうで。あれは誰がどう見たってCryの方。日本語で俺が知ってる泣くって表現は精々三通りやけど。ぐすんぐすんと泣くと泣き喚くや。でも、これ多分泣き喚くとはちゃう気がするな。
「嫌やぁ、Jamesと一緒がいいっ」
そのせいで、Mirandaに思いっきり支部長の存在がバレてもたで。ホンマ、このゴキブリうんこ頭! 現場じゃマジで使えへんやっちゃで! 二度と支部から出んな! 道頓堀にカーネル・サンダースと一緒に沈んどれ。永遠に浮いてくんな。
「支部長が出てきたん? 嘘やん」
俺は頭を抱えて、溜息をついた。
Danteがようやく自分がやらかした事に気づいたみたいやったけど、支部長は優しくDanteの頭を撫でて分かったから黙ってろと囁く。その顔があんまりにも強気で優しげやったから、俺は茫然としてもたで。
だって、こんな部屋の片隅に閉じ込められてる訳やん。こんな状況でよぅそんなん言えると思う。俺、今こそこの頭かち割って、中に入ってんのがホンマに脳ミソなんか見たくなったもん。意外とカラメルたっぷりのプリンやったりして。
不安そうなDanteを黙らせて、支部長はMirandaに尋ねた。
「そんなに意外か?」
Mirandaは全然物怖じする事もなく、はっきりと言うた。
「所詮他人やん。わざわざ助けに来るとは思わへんかった」
「よく言われるよ」
支部長はそう笑うと、ボロボロ涙を溢してたDanteの肩を撫でながら
「でもこいつは大事な家族なんだよ」
と言い返す。
流石の俺も見惚れてもたで。
きっと昔はめちゃくちゃモテたんやろなぁ。その奥さん、ホレる筈やで。誕生日祝おうとして、クラッカー持ってスタンバってるアホ面からは想像つかんへんもん。
その言葉にまたDanteが大泣きしだして、俺はちょっとうんざりしたけど。やっぱりこいつは道頓堀に沈めた方が日本が平和になると思うで。
「まあええわ。とにかくDanteを逃がすとうちがケイティさんに怒られるんよ。諦めて置いてってくれへん? そしたら見逃すって約束するから」
俺はそんなMirandaにちょっと殺意を覚えたけど、ぐっと堪えて支部長を見た。
支部長はそんな俺の予想に反して吹き出した。
「おい、聞いたか? ヤバいめちゃくちゃウケる」
全然ウケてへん俺とDanteを無視して、支部長は一人で笑い続ける。はっきり言うて全然おもんないんやけど。これやったらまだJavaの教科書を読んでる時のがおもろいで。いちいちDanteに解説を頼まんなアカンけど。
Danteが茫然としながら俺を見てくるけど、俺にも理解不能やったからなんやろなとばかりに肩をすくめるしかなかった。
「この程度のビルくらい、アフガニスタンに比べたらどうって事ない」
支部長はくすっと笑うと、俺とDanteに囁いた。
「合図したら撃て、Danteは動くな」
「了解」
俺はそう答えたけど、撃てるとは思えへんくって手が震えてた。
仮にも仲間やもん。ちょっと前まで、一緒に仕事してた気にくわん女やけど仲間やもん。それをゆりの見てる前で撃ち殺すなんて、俺には無理。そこまで俺は冷酷にはなりきれへん。
支部長はそんな俺に気づいてたんか、一人で堂々と立ち上がるとMirandaに向かって笑いかけた。俺もDanteも流石に支部長のズボンとかシャツとか引っ張ってそんな無謀な真似すんなと声にはせんかったけど、止めようとした。でも、無駄。
支部長は凄いしっかりと言った。
「教えてくれ、何故裏切ったりした?」
俺もDanteも茫然。この人、ホンマにイカれとんちゃうか? それか怖いっていう嫁さんに殴られすぎてアホなんかな。Danteはあんぐりと口を開けたまま、支部長を見つめてるだけ。きっと俺とおんなじ事考えてんで。
でも、誰も支部長を撃ったりせぇへんかった。
ただ、Mirandaが答えた。
「うち、はじめっからこのつもりやったよ、支部長」
「どういう事だ?」
「うちはHeaven'sGate社の工作員なんよ、元々」
淡々とした会話にゆりが割り込んでくる。
「なんや、この女。キモイって」
ゆりがマイクに向かって、ぐちぐちと言い出す。
あんまりにもうるさかったから、支部長はヘッドセットを外してこっちに投げた。俺は仕方がないからそれをDanteに渡して、ゆりにうるさいと囁く。
ようやくDanteがいつもと同じように役に立つ事を言い出した。
まずゆりに向かってよぅ聞いてと囁く。
「ゆりちゃん、現場の工作員の命はバックアップのハッカーの腕に任されてんねんで? そっから見てたらゲームみたいやろけど、ルノは命を預けてるんや、しっかりして」
珍しく、Danteが真面目な発言を続ける。
「敵の数は何人? 正確な場所と逃げるルートを確認して」
暇さえあればプリンかゴキブリしか言わへんDanteからは想像もつかへん顔やで。しっかりしてて、頼れるバックアップ。いつも、こんな顔で俺のバックアップしてくれてたんやろか。俺はちょっと意外やったから、しげしげとDanteを見つめてた。
「人数は四人で、正面のドアの前に固まってるよ。逃げるルートってどうしたらええん?」
焦ってるのがバレバレなゆりがそう言う。
Danteは比較的落ち着いた声で返す。
「オレの作ったクラッキングツール使ってるんやったら、画面の右下にビルの図面が出てる筈や」
俺はそんなん見た事ないから、静かにDanteとゆりの会話を聞いてた。支部長の声、二人のおかげで全然聞こえへんししゃーない。
「必ず工作員の目線と一緒の方向にその地図が回るようになってるから、それをよぅ見て案内するんや。この場所、オレが脱出ルートを設定してる筈やから脱出ボタンを押したら地図に線が出る」
Danteはそう言うと、支部長を見上げた。
逃げれるかとばかりに視線を向けたら、支部長は笑って頷いた。そして、俺が渡そうと持ち上げた小口径の銃をひったくって、一瞬で引き金を引く。迷いのなさと強い目に俺は寒くもないのにぞっとした。
乾いた音が響く。
支部長は冷静に引き金を何度か引き、そして、俺とDanteに向かって怒鳴った。そりゃもう、めちゃくちゃ怖かったで。支部長、マジすぎて。
「走れ」
俺はDanteの腕を引いてデスクの影から飛び出すと、そのまま走って死体を飛び越えた。早速死体にけつまづいてよろめくDanteを引きずるように、俺は走った。
後を追ってくる支部長が銃を乱射してるのがちょっと怖い。
あれだけ撃ったら当たりそうなもんやのに、Mirandaの罵声は相変わらず聞こえてくる。
純粋に怖いと思った。ホンマに。
ゆりの言葉に従って廊下を抜けていくと、屋上に出る。まさか飛び降りろとでも言うつもりか? それやったらいくらなんでも酷すぎんで、Danteの脱出ルート設定。もうちょっと人間業を駆使してくれへんかな。
「ちょぉ、逃げられへんやん!」
思わず叫ぶ俺に、ゆりは同じく叫び返す。
「うちに言わんとってよ、このプログラムのロジックが酷すぎるだけちゃうん?」
「このルートは緊急事態でヘリコプターが来てくれる設定のんや!」
「そんなルート、登録せぇへんでええっちゅうねん!」
そんな俺らの無意味すぎる言い合いに支部長が笑って見せる。
「余裕余裕♪」
「どこがや?!」
三人に怒られる支部長も相当やけど、追っかけてきたMirandaがこっちに馬鹿デカいライフルを向けてくる。
「今日は最強のクラッカーが現場にいるから無力やん、ルノ」
「何を言うとんねん。コン専で一番勉強出来るゆりがこっちにはおるんやぞ!」
だいぶと無理のある返しやったとは思うけど、Mirandaには分からんかったらしい。誰やそれと不思議そうにしてみせるだけ。アカンやん。全然聞いてへん。
「うち、そんなに頭はよぅないで」
そんなゆりを無視して、俺はMirandaに向かって怒鳴った。
「根性なし! 素手で戦ったらどないやねん!」
「根性なしやからデカい口径の銃なんやろ」
思いっきり負けてるやんと思いつつ、俺はなんとか時間稼ぎをしようと頭をフル回転させる。頭をくるくる振ってたんとちゃうで。念のため。俺の頭がフル回転したところで、多分高熱でうなされてるDanteよりロクな考えが浮かばへんのは確かやけど。
「Danteもアホやな。そんなんやから捨てられるんやで」
冷たい目でこっちを見ながら、Mirandaはそう言うた。
そしたら、Danteがまた泣き出した。座り込むと、わんわんと。
その姿を見て、俺は初めて気が付いた。
Danteはいっつもそんなとこ見せたりせぇへんけど、ホンマはめちゃくちゃ気にしてたんやって。天涯孤独っていうのは知ってるけど、そんなに知らんかったんは確かや。まさか捨てられて天涯孤独とは思わへんやん。
「ちょぉっ! Dante」
アカン。こっちの負けや。
こんなDanteお荷物でしかないやん。
「しっかりしてぇや」
でも、Danteにはなんにも聞こえてへんかった。泣きじゃくりながら、頭を抱えて震えてる。閉所恐怖症で過呼吸起こした時ですら、こんなに酷くなかったのに。俺は目を丸くして、茫然とDanteを見つめる事しか出来ひんかった。
そんなDanteにMirandaは笑った。
「泣いてたらまた捨てられんで? 可哀想」
とうとうDanteの泣き方がおかしくなってきた。前に見たから分かる。過呼吸起こしかけてんねん。この害虫男がそんなナイーブな奴には到底見えへんけど。
でも、そんなん俺にはどうにも出来ひんかった。
ガタガタと震えながら、青い顔してるDanteの横にしゃがんでる事しか出来ひんかったんや。
JUGEMテーマ:小説/詩
| スタートリガー社の工作員達 | 22:03 | comments(0) | trackbacks(0) |

スポンサーサイト

| - | 22:03 | - | - |
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
トラックバック機能は終了しました。
トラックバック